往々にして、勝負には二つの顛末が用意されている。
勝利か敗北かである。
あの日二人の勝負の勝者は一体誰だったのだろう?

「RememberMyHeart」作:kounoさん、kobabuさん

 丁度、月と地球の間にはお互いの重力が釣り合うところがある。
普段は気まぐれな流星がほんの時々行き交うだけの空間に突然浮かび上がった物体は、
それを認識することが出来る人々を驚愕させたのだ。
 総理大臣執務室は普段は静かな空間で一通りの事務をこなすだけと言う雰囲気に満ちているのだが、
ほんの時々緊張感に包まれる時があるものだ。この時がそうだった。
 「総理!合衆国大統領からのホットラインです。」
いつもはどことなく遠慮がちな秘書官の強引な物言いから自民党総裁はすぐ只ならぬ雰囲気を感じ
取っていた。
 一通りの社交辞令をたどたどしい英語で終えた後
同時通訳の時間差さえ惜しむといったふうで
(挿絵:kounoさん)
会話を終えた後秘書官に厳しい口調で皆を集めるよう
指示を出し自ら小走りで部屋を去って行った。

 特別対策室は日本の国家を脅かす事案に対して
速やかに設置されるべきものなのであるが
当時の日本は比較的平穏で大きな天災も
訪れなかったので会議は遅れていたのだが防衛庁長官の
会議趣旨説明は異常なものとなった。
「18時間前NASAから通達のあった内容を説明します。
32時間前アメリカいや多分地球人に対する異星人からの
ファーストコンタクトが有りました。」
説明を聞く議場の人々の反応は以外な程静かだった
皆今から起ころうとしている事が
事実と認識出来なかったからである。
「これからお配りする資料に目を通して頂きたいのですが
今朝早く陸自の通信基地においても相手方の通信波を傍受致しました。
詳しい説明は省きますが、内容は戦線布告です。」
場内はどよめいた。
 「早速ですが、此処で1時間の休憩とさせて頂きます。」
そう言って長官は席を立った、これから始まる質問に答えきれる自身も知識も無いのが
本当の理由だが皆に状況を理解、整理させるのが目的でもある。
大方の予想道り会議は紛糾したが、議題の大半は事実の信憑性につて費やされていった。
 だがこの後事実はアメリカのニュースネットワークによって伝えられ、自民党は解散に
追いやられるのである。

 あたるは練馬の友引高校に通う男子高校生である。
見た目は、けしてお洒落ではないが快活さは人一倍である。
妙に物怖じしない性格の為かそれともその若さ故か、異性に対しての興味をストレートに露す癖があり
女生徒からは敬遠されている風だったが、それなりには人気者らしい。
むしろ彼に興味が有るのは今や彼の周りの人々では無かった。
例えば帰宅した彼を待ち受けていたマスコミ取材人などがそうであろう。
彼らはこの一介の高校生に向かって次々と矢の様な質問を浴びせ掛けたのである。
 「諸星あたる君ですね!?ご感想を!!」
 「君は今世界中の注目を集めているんですよ!」
まとわり付く取材陣を掻い潜り父母に迎えられて自室に入る彼は今何が起ころうとしているのかを
理解するのに十分な光景を見たのである。
 それは座高が二メートルを超える程の大きさの鬼の面容の大男とその娘と名乗る十台ば半ばの
女性であった。
彼らは地球侵略に来た宇宙人で、地球人の代表と勝負したいのだと、そしてその地球代表は あたる 
なのだと言う事、更には勝負の方法は鬼ごっこで十日の期限内にその女性の角を掴めたら侵略はしない
と伝えると宇宙船に帰って行ってしまうのだった。
 
 翌日からあたるは忙殺された、ルールの詳しい説明に始まり、健康診断、体力解析、
NASAとの打ち合わせや果てには、心理学、人間行動学の講義迄、予め作成された予定道りの作戦行動を
取る様にプログラムが既に出来上がっていたからだ。
 非常に短い期間で科学者有識者延べ数千人に作成されたそのプログラムの膨大な資料は鬼ごっこ迄の
短い間にあたるが習得出来る様な代物では無かったのだが、国を超えてあらゆる人知を尽くそうとする
その姿勢に彼は並々ならぬ物を感じ取っていた。
 むしろ閉口したのはそのVIP待遇であろう、あたるの自宅の周りには常に自衛官や警察官が数千人
常駐しており行動は全て報告し制限されたのである。
 就寝時間等も予め決められているのでTVなど見る暇も無かったが最新の情報は係官の定時報告で
確認出来不安がないようにとの配慮もなされていたし、生活全般は自宅で行える工夫もなされていたが
半径500M以内の住人は一時自宅を放棄させられていた。
 鬼ごっこ前日は流石にあたるは興奮状態で寝付けなかったが、メンタルドクターのカウンセリングと
睡眠誘導材の効果でゆっくり眠れた様だった。





(挿絵:kobabuさん)



 翌朝日本は、いや世界中の人々はテレビの前に釘付けになった。
とうとう始まるそのゲームの結果を見ようと政府の要人もテレビの前に座る。
ペンタゴンでも同様で今や日本での出来事が世界中の人の生活のリズムを作っている様だった。
今やアメリカ、ソビエトを始めとする軍事大国は第一級の警戒態勢を牽いており、
核の使用の辞すべきではないとする評論家の意見もメディアを通じて連日報道されていた。
 その全世界から注目を集めている少年の相手 ラム は宇宙からやってきた鬼族族長の娘である。
地球人の感情を逆撫でするようにはしゃぐラムの容姿は一際美しく、衣装はとら縞のビキニのみと
いった風で頭の角さえなければ地球でトップアイドルになっていたであろう。
 そのラムの角を掴まなければならない、あたるはやはり緊張の面持ちでスタートラインに
着いていたのであるが時々見せる表情に自信の様な物が感じ取れる為かテレビを見入る人々に
決定的な絶望感を感じさせるには到ってなかった。
 ゲームの開始は日の出が合図となる。
と同時に猛然とダッシュするあたるのタックルを軽々かわし空に舞い上がるラム。
 その瞬間世界中は凍り付いた。
 
 「なんとエイリアンが空中に浮かんでいます!!」
アナウンサーの叫びは悲痛だった、同時に観衆からは落胆の声と罵声がとんだ。
 人々の大半がたった今始まったゲームの顛末に最悪の結果を予想し異星人による迫害にいよいよ
現実みを感じ始めている時、事態は急変した。


 空高く舞い上がる少女に あたる が叫ぶ。
 「ラム!お雪さん、弁天さま、ランちゃんは元気か!?」
 少女の動きが止まった。
 「ダーリン!?」
 「何故?覚えてるちっや!?」
その声は驚きと喜び戸惑いが。
 そうあれから一年人々は変わったがこの二人は変わっていなかった。
一年前ラムが用意した 記憶喪失装置によって地球人の記憶から、ラムやその仲間の記憶は
消去されたはずだった。
二人の運命をかけた鬼ごっこはこれが始めてではなかった、もう訪れる筈の無かった地球に
彼女が帰って来たのは、ほんの気まぐれ。ただこの地球の少年との思い出を共有したいだけ。
 彼はこの一年彼女の夢を見ない日は無かったし、彼の部屋の窓の鍵を閉めた事も無かった
彼女が出入りするであろうその場所は風雨さえ強く無ければ一日中開け放たれてもいた。
 「帰って来いラム」
そう呟くあたるの言葉は現場に数百本設置されたマイクでも聞き取れる様なものではない
のだがもう二人に言葉は要らない様だった。

 二人の目から涙が湧き上がる。
 強く抱き合う二人に人々はあっけにとられていたがやがて二人は空高く舞い上がり
皆にその様子が判らなくなるまで長い時間はかからなかったが人々から
それからずいぶん長い間どよめきが消える事は無かった。

 空から見る東京は、はたして何事も無かった様に静かに、平和にそこにあった。
 「忘れないって言ったろ。ごめんラム、また二人で皆の思い出を作リ直そう。」
 ラムにも皆にも悪い事をした、そう思うあたるがラムにかけれる言葉はそう多くも無かったのだが
せいいぱいの言葉にラムも頷いた。
 (必ず又合いに来てくれると信じてたよ。)
心の中でそう呟くあたるはポケットには、あの日のラムの角が有った。


 終わりに
もし最終話記憶喪失装置が働いてラムが星に帰ってしまった時どうなるのか?
という疑問に僕なりの想像を働かせてみました。
ラムはあたるとの一番の思い出をどんな形でもいいからあたると共有したいのでは
と思いました。
あの日の楽しかった出来事を。







<戻る>











SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送