「公園にて」 作:千石光さん



時は5月最初の土曜日、ちょうど時計は二時をさしている・・・木漏れ日がまぶしくひかり、人々は、にわかに活気付く。
すっかりまわりの木は緑色に色づき、さわやかな風が吹き抜ける。
公園では、元気いっぱいの子供たちが声をあげて遊んでいる。
そんな中、ある二人はそのようなことには気もとめず、同じ日々を繰り返していた。
青年は美人を的確に選び、すかさず声をかけている。その速さは特筆すべきものである。
しかしなかなか的を射ることはないようだ。それでもめげず、次の女性へと足を向ける
後ろから少女が声を張り上げながら青年の背中を追いかけている。体からはうっすらと青白い光を放っている。
「こらーっ!!だぁーりん!!またよその女とデートする気だっちゃね!!」
「おっじょ〜さあ〜ん!!住所と電話番号教えて〜!!」
この二人の行動はすでに日常化しており、春、夏、秋、冬、関係なしに。
それでも二人は飽きずに繰り返す。
青年の方は少女に比べ少しばかり背が高い。しかし、顔のほうは精悍というには少し難しく
見た目からして頭脳明晰とは思えない顔立ちをしている。それは行動にあらわれている。名を諸星あたるという。
一方、青年を追いかけていた少女の方は、やわらかそうな髪で色は染めたというわけでもなくなぜか緑色だった。
そして空を飛ぶことができ、電撃を放つこともできる。その電撃は主に青年に向けて放たれている。
顔立ちや体型は一般の人がいう、「美人」である。少女という表現は少しばかり間違っているかもしれない。名をラムという。
「そんなにデートしたいなら、うちとデーとするっちゃ!!」
ラムがあたるの服をつかんで近くにいるのに大声でいう。
「なんでおまーとデートしなけりゃならんのだ!!そんなことするならガールハントしていた方がましだ!!」
あたるは言い返した。しかし、ラムが大きく息を吸い込んだ瞬間、顔が青ざめた。
「ラム、お、おちつけ!はやまるな!な!」
ラムは聞かなかった。次の瞬間大きな爆発と同時に叫び声が、町内に響いた。
それでも二人の追いかけっこは終わらない。

そして時間がたった。日はだいぶ傾き近所の家からはいいにおいが漂ってくる。そして子供たちは明日の約束をして家路に着く
とたんに公園はがらんとしてどこか物寂しげなすべり台が目立っていた。しかしがらんとした公園に昼間、青年を追いかけていた少女、ラムがいた。

ラムは子供たちに見放されたかのようなブランコに座っていた。何か考え事をしているのか、焦点は一点に集中していた。
それでもブランコは意味もなくほんの少し動いている。
『ダーリン・・・昼間言ったこと・・・本気だっちゃ?・・・』
きれいな、曇りのないその瞳からはしずくが零れ落ちそうだった。それでもブランコは意味もなくほんの少し動いている。
ラムの目の前に6歳ほどの男の子供が立っていた。ラムは気づいていない。
子供が口を開いた。
「おねえちゃん。何か悲しいことでもあったの?」
はっと気づいたラムは何かを振り払うかのように笑顔で子供に答えた。
「そんなことないっちゃよ♪ちょっと考え事してただけだっちゃ♪」
ラムは子供に微笑みかける。子供は満面の笑みでラムを見た。
「あ、ブランコに乗るっちゃ?」
「うん!」
そう子供は元気に答えるとラムが降りたあとのブランコにのって勢い良くこぎだした。
ラムは時計を見た。6時をまわったぐらいだ。
「じゃあ、うち、帰るっちゃね。あんまり遅くなったらだめだっちゃよ〜!」
「は〜い!」
子供はブランコをこぎ続ける。公園は小さな訪問者を受け入れた。少しばかり喜んでいるようであった。そして日が沈んでいく。

諸星家に飛んでいく少女の頭の中は少し暗かった。さっき、ブランコで考えていたことをまた考えていたのである。

ラムはあたるの部屋の窓から家に入るのである。そこには雑誌を読んで笑っているあたるがいた。
「遅かったな。何してたんだ?」
「ず〜〜〜っと、ダーリンを探してたっちゃ!!」
「にょほほほ、残念だったな〜見つからなくて!」
あたるが高笑いする。いつもならここで会話は終わる。しかし今日はここで終わることはなかった。ラムが高笑いするあたるに静かに聞く。
「ねえ・・・ダーリン、ひとつ、聞いていい?」
ものすごくやさしく、どこかおびえたような口調で話す。
「なんじゃい?あらたまって・・・」
あたるは少しきょとんとした表情で聞き返す
「昼間言った、うちとデートするより、ガールハントしてたほうがいいって・・本当だっちゃ?」
あたるは高笑いしながら答えた。まるで答えは決まっていたかのように。
「にゃははははは!!そんなもんあたりまえだろうが!!大体、お前が・・・」
あたるは雰囲気を飲み込むのが少し遅かったことをものすごく後悔した。
ラムがあらたまって聞いたという事に何か気づいてやれなかったことに対してひどく嫌悪した。
ラムの頬にはとてもきれいで、悲しい雫が筋を作っていた。そして下を向いていた。それからその雫をぬぐうこともなくただひたすらに悲しんでいた。
今のラムは公園の子供に見せたあの表情はどうしても作れなかった。
あたるは精一杯ラムを泣き止まそうとした。あたるは泣いているラムを見たくなかった。
「な、な、なにも泣く事・・・・」
それでもラムは泣き止まない。下を向いたまましゃべらない。いや喋れなかった。
時計はただひたすらに時を刻み続ける。あたるが途中まで読んでいた雑誌だけが床に転がりあたかも二人の素行を観察しているようであった。
時は流れた、実際にはほんの数分であるだろうが二人にはとても長く感じられた。
あたるは急な出来事でラムに声をかけることができない。静寂を破ったのはいつのまにか泣き止んでいるラムのほうだった。
ラムがゆっくりと口を開く。
「・・・うちが・・・悪かったっちゃ・・・いきなり泣いたりしてごめんちゃ・・・
もう、無理言ったりしないから・・・うちもうUFOに帰るっちゃね・・・」
ラムはあたるにやさしく微笑みかけて窓から空に帰っていった。あたるはラムの悲しそうな微笑みが頭に残っていた。
はっと気づいて名前を叫んだ時にはラムはもうすでに見えなかった。
床にある雑誌はかたづけられることもなく、たたずんでいた。時計も二人のことは関係ないといって、時を刻み続ける。

あたるはいつもより早く布団をしいて寝床についた。布団の中でいろいろと考えていた。
その考えごとの中で、終始、ラムのあの最後の微笑にとらわれていた。

今ごろ、泣いているんだろうか・・・

あした、謝ったほうがいいか・・・

そんなに辛かったのか・・・泣くほど・・・

そして、うとうとと眠りにつく



「ここはどこじゃ?」
あたるは見覚えのある懐かしい公園に立っていた。

木々は緑に生い茂り、日差しが強い。綺麗な蝶が舞っている。
あたりには子供たちが走り回っている。
「お〜くさ〜ん!!」
あたるは子供の母親と思われる女性に飛びついた。しかしそのまますり抜けてしまった。
「あ、あれ?」
「う〜む・・・不可解なところに迷い込んでしまった・・・目の前にこんなに綺麗な女性がいるというのに・・・ああ!!・・・おっじょ〜さ〜ん!!」
めげずにいろんな女性に飛びついた。しかしすべてすり抜けてしまった。
「っ〜〜!!どお〜〜して!?何で触れないんだ〜〜〜!!!」
あたるはだだっこのようなことを叫んだあと、まわりをみわたし日が傾いていることに気がついた。
子供たちは家路につき、誰もおらず、ラーメンのチャルメラの音が聞こえる。
空は真っ赤に夕焼けている。その赤い光に照らされ緑だった木々はなんとも鮮やかな色を生み出していた。
すべり台が赤い光に照らされ、悲しそうにたたずんでいる。ブランコが風のせいか、一定のリズムでゆれている。あたるはあたりを見回した。
「誰もおらんのか・・・誰もいない公園というのは、なんかこうさびしいものがあるよな〜」あたるは一人で納得していた。
もう一度ブランコに目をやった。そこには考えごとをしているラムがいた。
なぜかわからなかったが、すぐ声をかけたかった。
「ラ・・・・・」
あたるは自分の服のすそが引っ張られていることに気がついた。あたるのすそを引っ張っていたのは6歳ほどの男の子だった。
「どうしたの?もう日が落ちちゃったよ。帰ったほうがいいよ。」
あたるは子供用の声で喋りかけた。あたるは意外と子供にやさしいのである。
子供は声はかわいらしい子供の声だが、ひどく落ち着いた口調で話し始めた。
「おねえちゃんは・・・ずっとお兄ちゃんのことを追いかけていたんだよ」
確かに今日一日中ラムはあたるのことを追いかけていた。そのことをもちろんあたるは知っている。
「ずっとって言ってもそんなに長い時間じゃないよ」
あたるは言った。いつものことだから別に気もとめなかった
子供はまた言う。
「違うよ・・意味が違うんだ・・・おねえちゃんは・・・おにいちゃんにあった時からずっと・・
ずっと追いかけていたんだよ。おにいちゃんの背中を・・・」
「え・・?」
あたるは意味がわからなかった
「おねえちゃんはおにいちゃんに追いついたいんだよ・・・だからずっと追い続ける・・・これからも・・」
あたるは少し意味がわかったような気がした
「だったら・・・」
だったら別にそれでいいじゃないか。二人ともその状況を楽しんでいる。それが幸せなんだ。といいたかった。それより先に子供が続けていった。
「二人ともそれで幸せなのかもしれない。でもやっぱりおねえちゃんはおにいちゃんのことが好きなんだ。二人ですごしたいと思ってるよ。」
あたるが少し戸惑ったように言う
「じゃあ、いったいどうすれば・・・」
子供は少し笑いながら言う
「おねえちゃん・・ずっと追いかけっぱなしじゃ疲れちゃうよ・・・時々、立ち止まって後ろを振り向いてあげて・・・
一緒に歩いてみて・・・それからまた二人で追いかけっこをすればいい。」
あたるは自分にできることがわかった。あたりはすっかり暗くなっていた。電灯の周りに虫が集まっている。
静けさが妙に恐怖感をあおった。ブランコに乗っていたラムももういない。
「ラム!!」

あたるは今の公園の出来事が夢であるとようやく悟った。下から母親が朝飯を食べろと叫んでいる。
今日は日曜日、空は晴れていて小さな雲が流れていく。
あたるが服を着替えて下におりると母親が朝飯を用意していた。
ラムが用意を手伝っていた。
おはよう、二人は自然に挨拶していた。なぜかわからない。これが日常なのかとあたるはしみじみと感じた。
いただきま〜す!!この号令を合図にあたるとテンの戦争が勃発した。しかし長くは続かなかった。
あたるがテンの火をかいくぐり上からフライパンでたたきつけ、跳ね返ってきたところをホームランしてしまった。
ご機嫌なあたるは朝飯をまた食い始めた。
ごっそさん!そういった瞬間、あたるは町に出てガールハントをはじめようと考えた。
ラムともあんまり気まずくなかったせいかまた追いかけてくるだろうと確信していた。
しかしラムはこない。はるか後ろのほうでこちらを見つめている。

それを見てあたるはラムの元へ駆け寄った。
「どうしたのだ?いったい?」
「どうしたって?」
「いや・・・おこらないのか?」
これでは追いかけられるのが楽しいかのように聞こえてしまうのをわかっていながらあたるは聞いてみた。するとラムは
「うちは・・・ダーリンの幸せな顔を見たいっちゃ・・・だから・・・」
だから・・・?
だから追いかけないというのか、確かにそうなのだが・・・
あたるは自分のことを想ってくれている人の気持ちにこたえられない自分がもどかしいと心のそこから感じた。
「あ・・・そばにいたら・・・ガールハントしにくいっちゃね・・・うち、家で待ってるっちゃ」
「あ・・・」
あたるはほうけた声を出しそれっきりだった。このまま家に変えるのも何か間抜けな感じがして、そのままぶらぶらと町に出ていた。


あたるが部屋に着くとラムは掃除をしていた。
「ダーリン、お帰り♪」
「あ、ただいま・・・」
笑顔でラムが迎えてくれた。少し照れくさかったがあたるは久々に笑顔を見て何故だかうれしくなってしまっていた。
しかし、その笑顔を見てあたるは決心した。
「なあ、ラム・・・」
ラムのそばに立つ。ラムはきょとんとしていた。
「何だっちゃ?」
それでもも笑顔を絶やさない。綺麗な緑色の髪があたるの目の前で揺れていた。綺麗な瞳をしている。
ずっと自分の背中を追い続けてくれたその娘に対してあたるは自分にできる事を考えた。なぜなら今度ばかりは申し訳ないと思った。
「あのさ・・・昨日は、ごめん・・」
笑顔でラムが答えた
「ううん、気にしてないっちゃよ♪それより夕ご飯食べよ♪」
ラムが振り向いて歩こうと思った瞬間、あたるが後ろからラムを抱きしめた。それはそっと触れるだけだったかもしれない。
力強く抱きしめたかもしれない。それは本人たちにもわからなかった。
「ゴメン・・・」
「ダーリン・・・」
綺麗にされたその空間は壁にかけられた時計以外はゆっくりと時間が流れた。
そしてゆっくりと二人は離れる。
「今度の日曜あけとけよ!」
「え?」
「デートだからな!!3時にいつもの公園の噴水の前な!!」
「・・・うん!」

いつもの公園、噴水の前にはいつもより少しおしゃれをした綺麗な女の子が立っていた。
そこに、少し恥ずかしげに青年が遅れてきた。女の子はうれしそうに青年に飛びついた。
青年は少し振り払おうとして、あきらめたようだ。そして歩いていく・・・


時は5月最後の日曜日・・・ゴールデンウイークも終わり、5月も、もう終わりである
木々はいっそう緑に茂り、風が少し湿っぽくなってきた。人々は雨に憂鬱を感じ始める。
それでも相変わらず公園では子供たちが遊びまわっている。
そして・・・青年と少女は・・・

追いかけっこを続けているのだった。日常はそれでも毎日少しずつ変わる。

少しずつ、ゆっくりと、確実に、明日は今日と同じではない。それでも人は進み続ける。


〜終わり〜





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