「謹賀新年」作:朝霧小兎さん


「犬夜叉、おすわりっ、おすわりっ、おすわりっ、おすわりーっ!」
「ぐえぇぇぇっ!」

今からおよそ500年前の戦国時代。
武蔵の国と呼ばれる地域のとある古井戸の付近はいつにもまして騒がしかった。

「絶対来ちゃだめだからね!」

そう言って井戸の中へ飛び込んでいったのはかごめ。
井戸を通してタイムスリップの出来る現代の少女である。

「…くそぅ…。腰いてぇ〜…。」
「まぁまぁ、許しておやりなさい。犬夜叉。かごめ様の國では今日はお正月。
 新年のお祝いぐらいご家族でされるのも宜しいじゃありませんか。ね?珊瑚。」
「うっ、うん。そうだよ。」
「それに、おらたちだって休めるしの。ここんとこずっと旅ばっかりで疲れたわい。」

こんな会話が井戸の周辺でされている中現代へと戻ってきたかごめは、
さっそく風呂に入り用意された巫女装束に身を包んでいた。

「かごめ。よう似合っとるわい。そもそも巫女の由来はな…」
「かごめ、これから忙しくなるから早く来なさい。」
「はーい。じぃちゃん、その話はまた後でね。」

彼女の家は古くからある由緒正しい神社。
今日は一月一日であり初詣に参拝する人々も夜中から後を絶たない。




「お父さん達、本当に行かないの?」
「外は寒いからなぁ。ささっ、早乙女くん一杯どうだね?」
「ぷぁぽー!」
「あかね、気にしないで行って来なさい。」
「そうよ、あかねちゃん。私たちに気にしないで乱馬と行ってらっしゃい。」
「うん。じゃ、行ってきまーす。」

日暮神社のある町の駅から3つばかり離れた町にある天道道場。
なびきは朝から友人と初詣。
かすみとのどかはのんびりとすごし、
父親達は正月であることを良いことに朝から宴会だ。
あかねはのどかに仕立てて貰った晴れ着をまとい乱馬と初詣に出かけた。

「へへっ。」
「なっ、何だよ…。」
「ううん。何でもない。
 なんか、こうやって歩くのって久しぶりかななんて思ったから…。」
「そ…そうか?」

あかねは乱馬に寄り添うように歩いている。

「あっ、ねぇ。折角だからちょっと遠くまで行ってみない?」
「遠くって?」
「日暮神社。電車で行かなきゃなんないんだけど結構評判良いんだよ。」

あかねはそう言うと乱馬の腕を引っ張るように歩き出した。




「やっぱり、女の子って良いわねぇ。」
「華やかだしね。あっ、母さんお茶。」
「はいはい。」

諸星家の新年は毎年同じように繰り広げられる。
あたるの母はラムに晴れ着を着せるのが唯一の楽しみであるようにさえ思われる。

「うわー!ラムちゃん綺麗やぁ〜。」
「だっちゃ。ダーリン!」

ラムはこの姿を早く見て貰おうとあたるの部屋へと飛んでいく。

「ダーリン。どうだっちゃ?お母様に着せて貰ったっちゃ。」
「はいはい。綺麗綺麗。」
「ダぁ〜リ〜…。ちゃんとうちを見るっちゃ―――――!」
「うぎゃぁ〜!」

新年早々の雷もまた一興。
黒こげになったあたるを引きずりラムは意気揚々と外へ出かける。

「おっ、おい。ラム!」
「何だっちゃ?」
「何処行くつもりだ?」
「初詣!」
「初詣?!って、サクラさんの神社は反対方向じゃねえかっ!」

あたるはがばっと起きあがると元来た道を引き返しサクラの神社へと行こうとする。
が、後ろの襟首をラムにしっかりと捕まれているので前へ進むことは出来ない。

「何言ってるっちゃ。
 今年はちょっと遠くまで行くんだっちゃ♪付いて来るっちゃよ」
「離せ〜〜〜!」

あたるの叫びは無情に町内に響き渡る。



「しっかし、新年早々気分悪いぜ。」
「まぁまぁ、良いじゃないの。そこの木に結んできたら?」

日暮神社に来た乱馬とあかねは参拝したその帰りおみくじをひいていたのだ。
こういうことに関しては運の強いあかね。
当然「大吉」を引き当て大はしゃぎであったが、
その隣では重く不幸のどん底のような顔の乱馬が立っていた。

「って、言うかこれって『雷に注意せよ』って事だろ!?」
「そうだよね。」
「こんなの、普通にしてたら絶対ないって。」

乱馬はおみくじに書かれたいた内容を負け惜しみからか笑い飛ばしていた。

「待つっちゃ!ダーリン!」
「待つか〜!おねーちゃんv」

鳥居の方がなにやら騒がしい。
参拝に来た女子達がきゃーきゃーと叫んでいる。

「おい。こっち、来るぞ。」
「…だね。」
「逃げるか?」
「うん。」

身の危険を感じた二人が逃げようとしたときだった。
数多の人混みをかき分けあかねに突進してくる男。

「おじょーさ〜んv」
「もぅ、我慢出来ないっちゃ。覚悟するっちゃ!ダーリン!」
「ぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜!」





「あの…気が付きましたか?」
「…ここは?」
「あっ、私は日暮かごめ。
 この神社の娘で、ここはこの神社の奥にある私の家です。」
「あの…俺…。」
「さっきは、ゴメンっちゃ。」
「乱馬ぁー!」
「うわっ!?」

乱馬が未だぼーっとしていたとき突然あかねが涙を流しながら抱きついてきた。
そう、今まで気を失っていたのは早乙女乱馬。
突進して来る諸星あたるからあかねを守ろうと二人の間へ入ったとき、
ラムの電撃があたるめがけて打たれた。
しかし、これが日常茶飯事のあたるは、
目の前にいるのが可愛い女の子ではなくむさい男であることで素早くこれをかわした。
それによって、見事乱馬が感電してしまいその場に黒こげになって倒れたのである。

「…『雷』ってこのことだったのか…。」

未だ朦朧とする意識の中、乱馬は必死に考えを整理している。

「きゃっ!」
「おじょーさん。名前は?電話番号と住所教えて。今度お茶しない?」

突然のあかねの悲鳴にはっと我に返った乱馬はその声の方を振り向いた。
そこには明らかにナンパされているあかねの姿…のはずだが、
そのあかねの傍らにはぼこぼこになり更に黒く焦げた人影が転がっていた。
とうのあかねはと言うと息を切らし右手にはしっかりと握り拳が作られている。

「あっ、乱馬。この人はラムさんって言うのよ。宇宙人なんだって。」
「へぇ〜。」
「宜しくだっちゃ。」

三人がのほほんと会話をしていると外の方からつんざくような悲鳴が聞こえてきた。
慌てて駆け寄るとそこにはかごめとあたる。
丁度骨食いの井戸のある祠の前だった
ラムが体中から電気をぱりぱりと放電しあたるに近づこうとした時、
祠の仲から勢い良く何かが飛び出しあたるめがけて一発殴った。

「い、犬夜叉!?」

皆がその出てきた者の姿に気を取られているのに対し、その少女は普通に接している。
白い髪に現代離れした着物。よく見ると犬の耳。

「「「…宇宙人!?」」」

ラム、あかね、乱馬の三人は全く同じ事を考えていた。

「おい。かごめ。」
「なんでこっち来たのよ!?来るなって言ったでしょ!?馬鹿!」
「何でって弥勒達が迎えに行ってこいってうるせーんだよ!」
「?!」
「これ、本物だっちゃ?お前も宇宙人け?」
「ってめ、何しやがる!?」

ラムはあの動く耳を見ていてもたてってもいられなかったのだろう。
背後から両耳を掴みくいくいと引っ張ってみた。
当然犬夜叉はその手を払いのけ威嚇する。

「おすわりっ!」
「ぐぇっ!」
「あの、この人犬夜叉っていって…
 信じてもらえないだろうけど戦国時代の妖怪…なんです。」

かごめはおずおずと犬夜叉の紹介と、何故戦国時代の妖怪がこの世に来たのかを説明した。
乱馬達は興味深げにそれに聞き入ってる。

「ふぅ〜ん。かごめちゃんも大変なのね。」
「戦国時代って面白いけ?」
「ねぇねぇ、今度向こうのおねーちゃんも紹介してよ♪」
「妖怪退治は武闘家の勤め。おれも協力してやるぜ!」

皆口々に好きなことを言っている。

「おい。諸星とか言ったな?」
「何だよ。」
「かごめに、手ぇ出したら緩さねぇからな!」

犬夜叉はさっきの事をまだ根に持っているらしくかごめの隣から一歩も離れない。
乱馬とて口には出さないが同じ事。
常にあかねの隣に陣取りあたるを近づけさせない。

「ホント。女癖の悪いダーリンでうちも困るっちゃ。」

ラムはため息混じりにぽつりと漏らす。

「そうよねぇ〜。二股男なんてのも嫌よ。」
「そうそう。優柔不断なのも疲れるわ。」
「だいたいさぁ、昔好きだった人の事今でも引きずってるんだよ!?」
「色んな女の人から『好きだー!』って告白されても 
 全然はっきり断ってくれないしさ…。
 許嫁のあたしはどうすればいいの!?って感じじゃない?」
「すれ違う女の人みんなに声かけてるっちゃ!」

ラムとあかねとかごめの会話が次第に盛り上がり且つ核心へと近づいてくる。
困ったのは男性陣。
いつのまにか隅っこで三人固まって小さくなっているではないか。

「犬夜叉…だったっけ?」
「何でぃ。」
「お前も大変だな。」
「お…おぅ。」
「早乙女くぅ〜ん。」
「なっ、何だよ?!気色悪い!」
「今度女の子紹介してv」
「けっ、んなこと出来るかっ!」

大声ではなくヒソヒソと会話を交わす。
どちらも普段言えないことを次々と暴露して
いつの間にか彼らは互いに初めてあった人同士ではないほどに、
人間、宇宙人、妖怪の壁を越えて親しくなっていた。
離しも一段落したところでその場にいた者全員が思ったこと。


――――自分だけが相手に振り回されてるんじゃなかったのか…良かったぁ――――


「あっ、乱馬。そろそろ暗くなって来ちゃったし帰ろうか。」
「だな。」
「ダーリン。うちらも帰るっちゃよ。」
「そうするか。んじゃ、またな。」
「犬夜叉、あんたも先に向こうへ戻ってなさいよ。」
「お…おぅ。」
「じゃぁ、皆さん。お気をつけてー。」

夕暮れの中、参拝客の姿もまばらになった境内に大きくそびえる御神木の木の前で
彼らは晴れ晴れとした気持ちで別れを告げる。


「ねぇ、乱馬。」
「ん?」
「今日は、楽しかったね。」
「そうだな。妖怪に、宇宙人…なんか漫画の世界に行ったみてー。」
「あははは。ホント。今日のこと、みんなに話す?」
「いや。いいや。だって、信じてもらえそうにねーもん。」
「だね。…乱馬の手…暖かい…。」



「今日は楽しかったっちゃね。」
「結構、ボロボロになったけどな。」
「それは、ダーリンが悪いっちゃ。」
「…ラム、もうちょっとこっち来いよ。寒いだろ?」
「…うん。」



「本当。犬夜叉ってばいきなり現れるんだからびっくりするじゃない!」
「けっ。」
「…でも、そのお陰で助かったんだけどね。ありがと。」
「……。」


それぞれがそれぞれの和む場所で一日を振り返り互いの距離を縮める。
改めて言葉で言う必要は無いだろうけど乱馬はあかねに、あたるはラムに、
そして犬夜叉はかごめに言葉を贈るだろう。

―――いつも、困らせてばっかりで悪かった。
   今年もこれから先もずっと一緒にいても良いか?―――と。

言葉を贈られた彼女たちはきっと同じ言葉を返すだろう。

―――当たり前じゃない。これからも、宜しくね。―――と。






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