「あの日にもう一度」作:ワンさん


 今日ラムがいきなり俺に、いつかの人形を手渡してきた。
「うちがパスポートの買い換えにUFOに帰った時に渡した人形だっちゃ」
 そうだ、思い出した。これはただのマイクの仕込まれたラム型の人形だったのに、
俺がとんだ勘違いをして大騒ぎになった時の人形だ。
「で、何で急にまたこれを俺に渡すんだ?」
「うちこれから、2〜3日、UFOに帰らないといけないんだっちゃ。うちがいない間が心配だから…」
「は。いらんいらん、そんな人形。」
俺はその人形をラムに突っ返した。盗聴器の仕込んである人形なんぞ渡されて、俺の行動を監視されたんじゃたまらん。
「でも今度はマイク入れてないっちゃよ、ダーリン。」
「え、じゃあ何のためにだ?」
「ただのお守りだっちゃ。」
 そう言ってラムは俺の制服の胸ポケットに、人形を丁寧に入れた。
「これで、うちとダーリンはいつでも一緒にだっちゃね♪」
「はぁ…。」
 そしてラムはUFOに一時帰省(帰星?)をしに帰っていった。

 一人で道を歩くのは凄い久々だ。いつも登校するのはラムと一緒だから。
ラムは俺と一緒に歩く時、滅多に話し掛けて来ない。俺の邪魔にならない様に気を使っているのだと思う。
誰も喋っていないのはいつもと同じなのに、ラムが居ないだけでいつもより静かに感じられるのが不思議だ。

教室に入るときっとメガネ達や面堂にラムの行方を拷問されるだろう。
ラムが出掛けたり、居なくなる度にそうだから、しつこいこと極まりない。
めんどくさいけど、俺は出席日数で成績を稼ぐしかないのだ。(それでも遅刻だらけだが)
溜め息をついて、俺は教室のドアを開けようとした。

「…なんだこれ。」
教室のドアが開かない。建てつけが悪いのはいつもの事だか、ついにぶっ壊れた様子だ。
「ったくっ…なんでこんなっ…」
思いっきり力を入れたがドアはギシギシいってなかなか開かない。
力をこめて少しずつ開けて、ようやく足一本が入れる隙間ができた。そこから俺は思いっきりドアを蹴飛ばした。

ばしっ!!!

ドアが壁にぶつかって跳ね返ってきた。なんとか俺は教室に入ることができた。
「はぁ…何なんだ、このドアは…。」
 教室に目を向けるとメガネ達が集まって牛丼特売のチラシを見て騒いでいるのが目に入った。
「見ろよ、これ!牛丼セールだってさ、値段がいつもの半額だぜ!」
「こりゃー買わない手はないな。このチャンスを逃がしたら一生後悔することになる。」
「じゃあ放課後に寄っていこうぜ〜っ」
…………あれ。何だ、誰も拷問したりしないじゃないか。
というかあいつら、牛丼に夢中で今俺が教室に入ったことすら気付いていない様子だ。
てっきり俺はラムに何をしただの、何処に行っただの、
お前のせいだのぬれぎぬをきせられて拷問三昧になるかと思っていた。ちょっと拍子抜けだ。
それにしても今日は何か違う気がする。この教室。ラムがいないだけの筈だが…。
そうだ、よく見ると面堂がいない。竜ちゃんもいない。この時期、風邪が流行っているから欠席なのだろう。
まぁいいや。どれ、朝一番のガールハント。しのぶに朝の挨拶でもしてくるか。
「しのぶ〜〜っっ♪おはよ〜〜っっっ♪」
 俺はしのぶに抱きつこうとした。するとしのぶが突然悲鳴をあげて窓の外を指さしたのだ。
「きゃあああぁぁぁぁぁっっ!!!な…何よあれ…」
「…え?」
 俺はしのぶの指し示すまま窓の外を見た。雲の様子がおかしい。昼間だというのに空は真っ暗。
この季節に雷が落ちてきそうだ。雲が渦を巻いて友引町全体を包み込むような雰囲気だ。
「不吉じゃ…」
「うわっ!チェリーどっから沸いてでた!」
「あの雲の動き、明日は何か不吉な事がおこる…」
「なんなのよ、あんたはいきなり!!」
 しのぶが机の角でチェリーの頭を思いっきり殴った。
 明日何か不吉なことが?あぁ見えてもチェリーの予感というのは的中することが多いのだ。
 
怪しい雲が空に浮かんだまま、授業が終了した。そういえば牛丼屋特売セールだっけ。
俺も寄って行こうかと思ったが金を持ってくるのを忘れた。一度家に戻ってから牛丼屋にむかおう。
そんな訳で俺は家に帰る事にした。
しばらく歩いてあと一つ角を曲がれば俺の家だ。
「……なんだ?」
ここの十字路に壁ができている。こんなとこに壁なんてなかった筈。
仕方がないので、回り道をしてみたがそっち側も同様。家に続く道は全て壁で塞がっているのだ。
「家に入れないじゃないか…」
塀を越えて家の庭に降りようとしてもそこにも壁がある。俺の家に入る為の手段がない。
「………」
困りながら辺りをうろうろしている間にあっという間に夜が来てしまった。
もう牛丼屋も閉まる時間だ。どうしろというのだろう。仕方なく俺は適当なところで野宿をした。

次の日。俺は昨日の制服を着たまま学校へ向った。家はまだ壁で塞がられたままなので、入る事ができない。
学校に行って、クラスの誰かに弁当を恵んでもらおう。

…と思ったのだが、校舎の目の前まで来て気がついた。…今日は日曜日じゃないか。
「ったくどうすりゃいいんだ…」
 とりあいずまた家に入れる手段を探すか。俺が振り返ったその瞬間、辺りがバチッと光った。大きな音を立てて。
 雷だ。何だってこんな季節に。しかも俺の家の近辺に墜落したように見える。
 空を見上げれば雲は昨日の渦のまま。真っ暗で灰色で、不気味な感じだ。その時俺の背後から聞き覚えのある声がした。

「あ、こんなところに居たのけ?」 
 
ラムの声だ。
「もう帰ったのかっ、案外早かったんだな。…一体なんなんだ、この騒ぎは?」
「さぁ…?うち知らんちゃ。ところでお前、今うちの父ちゃんがこっちに向ってるから、
 お前も早く家に帰ってほしいっちゃ。勝負の説明を聞いておかないと。」
……は?
「何の勝負だ?」
「うちとお前の。」
「どうして?」
「家に帰れば分かるっちゃ。」
「だから帰れねーんだってば。」
「何言ってるっちゃ?それじゃあ、うちは先にお邪魔してるっちゃよ。もう父ちゃんも到着してる頃だっちゃ。」
「ちょっと待て!お前一体何の話をっ…」
ラムは空を飛んで帰ってしまった。勝負?俺とラムが?何でまた。
家に帰ろうとしてもまだ壁がたっている。壁のむこうでは何やら人がたくさんいるらしくざわざわしている。
こいつらどうやってこの壁を超えたんだ?空まで届くくらいの高さがある壁なのに。
結局その日も俺は家の近辺で野宿をする羽目になった。いい加減腹が減って死にそうなのに…。


−夜−
「お前どうして家に帰って寝ないんだっちゃ?」
 ラムだ。
「なんか食べ物くれ…」
 もうこの際ラムの星の料理でもいい。
「家に帰ればいいのに。」
「だから帰れねーんだよ…」
「よく分からんちゃ。」
 はぁ……。鈍感な奴。
「…何、お前何か怒ってる?」
「どして?」
「だって『お前』なんていうから。」
「怒ってる様に聞こえるのけ?」
「聞こえるよ。」
いつもは『ダーリン』なのに、突然えらい変わり様じゃないか。
「じゃあ何て呼んでほしいっちゃ?」
 何てって…………
「〜〜〜〜…もーいいよ、お前で。」
「そうけ。」

 なんなんだこいつは、ホント。
 UFOから帰ってきてから様子がおかしすぎる。

 月曜日。 
家に帰れる手段がどうやっても見つからない。3日間何も食ってないし、ラムの様子もおかしいしままだし。
チェリーの『不吉な予感』は今のところ大的中である。しかも休みが明けても学校に来る人が一人もいない。
不可解な出来事ばかりだ。夜中に学校の近辺でラムと話す以外、俺は誰とも喋っていない。
家に帰れない間、夜は友引高校の近辺で寝ようと決めたのだ。

そうして過ごす事5日間。今日も夜遅く、ラムが俺の様子を見にやってきた。
「ほら!持ってきてあげたっちゃよ!」
 ラムは俺の目の前に自分の星の料理を置いた。
「おぉっ!これでやっと食べ物が食えるっ!」
 俺は何日間も全く飲み食いせずに過ごしてきた。正直自分の生命力に驚かされた。
でもこうして食べ物を見ると、お腹の減りを100倍に感じた。俺はわずか3分でラムの星の食べ物を全て食べ干した。
もう味なんてものは、腹が減りすぎて感じられなかった。
「ところでお前、この人形・・・」
 ラムは俺の胸ポケットを指差した。ラムが出掛ける前に俺に渡したラム型人形だ。
「お前どうしていつまでもそれを持ってるんだっちゃ?」
「別に…。入れてたの忘れてただけ。はい。」
 俺はラム型人形をラムに返そうとした。お守りにも何もならなかったけど。
「いいっちゃよ、別に。お前、うちに惚れてるんだっちゃね?」
「なっ…なんでだよっ!」
「だって、それ前々からずぅっと持っていたっちゃ。この人形うちにそっくりだっちゃね♪」
「入れっぱなしなの、忘れてただけだって言ってるだろーがっっ!」
 だいたいお前が勝手に突っ込んだのではないか!
 …たっく…もーいいよ。こーなったらもう返してやらん。
ご利益があるまで持ち歩いてやる。ホント役立たないお守りだ。

そして8日が経った。いつになったら家の前の壁は外されるのだろう。
いつになったらみんな学校へ来るのだろう…。
今日も夜遅くになればラムが食べ物を調達してきてくれる筈だ。
だんだん俺も、ラムの星の料理が平気で食べられるようになってきた。
「こら、お前っっっ!!!」
俺が後ろを振り返ると、怒りに怒って電撃をぴりぴり発電させるラムがいた。
よく見るとビキニじゃなくてタオルで胸を巻いている。
「どーした?」
「どーしたもこーしたもないっちゃ〜〜〜っっ!!」
 バリバリバリバリっっ!!
 ラムの星の料理を食う替わりに、久々にラムの電撃を喰らった。…って、なんなんだいきなり。
「何しやがるっ!」
「よくもそんなこと言えるっちゃね!うちに恥をかかせてもぉっ!」
 バリバリバリバリバリっっ!!
「やめんか!いい加減にせんと怒るぞっ!俺が何したっていうんだ!」
「怒ってるのはうちだっちゃ!」
 なんだこいつは!
「もうさっさとUFOに帰れ!!」
「言われなくても帰るっちゃ!」
最後に一発、雷が落下した。
ったく!何だあいつは!俺はしばし怒りがおさまらなかった。イライラする!

 次の日。今日はラムも俺に食料を調達してはくれないだろう。
まぁいい。少しくらい俺の胃はもつんだ。それは先日実証済みだ。
ラムが謝りにきたって、もう話を聴いてやるもんか。
いきなり押しかけて『ダーリン』だの、ちょっとUFOに帰れば『お前』だの。
しばらくすれば雷リンチだの。ラムに振り回されるのはごめんなんだ。
だがラムは今日もやってきた。

「何しにきたっ!もう俺はお前なんかいなくたって生きていけるんだからなっ。
 食い物だって自分で探してやる、家に帰る方法は自分で見つけてやっ…」
「……ダーリンっっっ!!」
 ラムが突然抱きついてきた。昨日のタオルはビキニに戻っていた

 ……ダーリンだぁ?なんだ、こいつは性懲りもなく。

「会いたかったちゃ!うちず〜〜〜〜っとダーリンのこと、探しつづけてたんだっちゃよっ!」
「…何言ってるんだ?」
 昨日会ったばかりなのに。
「俺は別にお前なんぞに会いたくなかったね。」
 全く。せっかくの仲直りのチャンスだというのに。
駄目だな、俺も。でも訳が分からないのも事実だ。
いきなり怒られて、次の日いきなり抱きつかれても。
でもラムが俺の事を普通に「ダーリン」と呼んでいる。なんとなく、ホントのラムが戻ってきたような感じがした。
「……さ、ダーリン家に帰るっちゃ。」
「…だから帰れないんだって。何度も言ってるじゃねーか。」
「うちと一緒なら帰れるっちゃ。」
「……どして。」
 そう言うとラムは小さい溜め息を一つして、話を始めた。
「あのね…うちホントはUFOに帰っていた訳じゃなかったんだっちゃ。」
「……じゃ、何処に行ってたんだ。」
「記憶辿り過去行き携帯タイムマシン捜索隊に参加してたんだっちゃ。」
「何だそりゃ。」
「記憶辿り過去行き携帯タイムマシンって言うのは、今うちの星で開発の進められている機械の名前。
 でもまだ研究中だから、販売は中止になっているんだっちゃ。
 うちの遠い親戚は助手として、タイムマシンの開発に関わっているんだけど、それをUFOで研究所まで運んでいる時、
 ちょっとした事故があって、タイムマシンが地球に落っこちてしまったんだっちゃ。
 だからその人がうちの父ちゃんに、一家でタイムマシン探しに協力してくれないかった言って…」
「ふーん。」
いや、俺が聞きたいのはそんな事じゃない。別にラムが帰省してる時に何をしていようとどうでもいいんだけど…
「で、そのタイムマシンは全部見つかったのか?」
「ううん。地球に落とした開発中のタイムマシンが10個。そのうち9個は発見されたけど、
 1つは地球人が間違って使用してしまったみたいだったっちゃ。」
「じゃあ今度は使った人を捜索しないといけない訳か。」


「……それで、あんまり長い間ダーリンの家に帰らないのも嫌だから、
 父ちゃんに許可をもらってうちはダーリンの家に帰ったんだっちゃ。その事件がおきてから一週間くらいたってから。
 でもダーリンは家には居なかったっちゃ。」
「帰れないんだってば。」
「違う。そうじゃない。ダーリンが家に帰ってこなくなってから一ヶ月が経ったっちゃ。」
「え、そんなに経ってないだろ。せいぜい一週間ちょっと…」
「だからうち思ったんだっちゃ。タイムマシンを使用したのはダーリンなんじゃないかって…」


「…………。」
「…………。」


「…いや、俺は使った覚えはないぞ。タイムマシンなんか。」
「…うちはもう一度捜索隊に参加して、タイムマシンが何処に落ちていたかを調査したっちゃ。
 それで、友引高校、2年4組の教室の扉の裏側に時空を越えた時に生じる時間のズレを見つけたんだっちゃ。
 つまり、タイムマシンが落ちていたのは、ダーリンのクラスの教室の扉の裏。」
「……………。」
「……何か覚えはないっちゃ?」

 ………ある。そうだ。10日前くらい、最後に学校に行った時、扉が硬くて開かなかった。
無理矢理抉じ開けたら、何か大きな音がしたんだ。あれは扉が壁にぶつかって跳ね返ったのかと思ったが…
タイムマシンのスイッチを押した時の音だったとしたら…。

「この携帯タイムマシンを使っても、タイムスリップしている間は他の人にはダーリンの姿は見えないっちゃ。」
「でもお前には見えてるじゃないか。」
「それは、うちもダーリンを追う為にタイムマシンを使ってきたから。
 うちとダーリンは本来同じ時空に住んでるからだっちゃ。」

そうか、教室でしのぶに抱きついた時、しのぶが俺を殴りとばさなかったのは
雲の様子がおかしいと気付いたからでもあるが、俺の姿が見えなかったからでもあるということか。
メガネ達は牛丼のチラシに夢中になって俺に気付かなかったのではなく、ただ単に俺の姿が見えていなかったのか。 
ラムはここで一息ついて、更に続けた。
「それから、この機械は過去の自分と現在の自分が顔を合わせる事を避けるようにするんだっちゃ。
 機械自体が混乱しちゃわないように。ダーリンが家に帰れなかったのは、
 そこには過去のダーリンが住んでいたからなんだっちゃ。」
 
つまりあの壁は家に住んでいる過去の俺と今ここにいる俺が顔を合わせないように機械が仕向けたものだったということか?
なんだかだんだん…分かるような分からないような…。

「じゃあ…ここは過去の世界だってこと?何年何月の何日なんだ?」
「それは分からないっちゃ。うちはそのタイムマシンの経路を辿ってここまで来ただけだから。
 でも、ここは、ダーリンが心の底で一番大切に思っている日なんだっちゃ。」
「どうして?」
「『記憶辿り過去行き携帯タイムマシン』は、使用人が心の底で、一番大好きだと思っている日、
 大切な忘れたくない日に行き先を自動でセットするっちゃ。」

 ……ここが俺が心の底で一番大切だと思っている日?何があったんだっけ…この日…。

「そろそろ元の世界に帰らないと……。」
「あぁ、どうすれば帰れるんだ?」
「…それがね、ダーリンがタイムスリップしてから、10日も時間が流れてしまったから……」
「なっ…帰れないのかっ!!?」
「ううん、ただ普通の方法では帰れないっちゃ。本来の使用期限は3日だから。
 でも特別な方法を使えば…元の世界に戻れるっちゃよ。」
「なんなんだ?その方法って。」

「普通の方法ではタイムマシンをもう一度使えば帰れるんだけど…。
 特別な方法では…同じ世代に住む人と、つながりを持ち直さなきゃいけないっちゃ。」
「…ん…どういう意味だ?」

 ラムは青色の瞳で俺を見上げて、俺の目を手で覆った。
「ダーリン…目、つぶってるっちゃ。」
「……ん?」
「…開けたら駄目だっちゃよ。」

 ラムに言われた通り、目はつぶっていたけど………
分かった。ラムが俺に何をしたのか、つながりを持ち直すってどういうことなのか。
自分の頬が赤くなってることも、全て認識できた。

 こいつ、俺にキスしてるんだな。

しばらくして、俺が目を開けると、そこはいつもの友引町だった。
「……これで、もう家にも帰れるのか?」
「うん…、ここはもう元の世界だっちゃ。」

 戻れたのか……。ようやく元の生活に戻れるんだな…。


「ねぇ、ダーリン。結局ダーリンが一番大切に思ってた日って、何の日だったんだっちゃ?」
 なんだ、こいつ。まだ気付いてないのか。
「さぁ、俺も分からない。」
 嘘だけど。
俺がタイムスリップした日はあの日だ。
ラムが初めて地球にやってきた日だ。
そう考えればまだ転校してきていない面堂がいなかったことも、竜ちゃんがいなかったこともツジツマが合う。
誰一人として、学校に登校してこなかったのは、俺とラムの鬼ごっこを見ていたからだ。
あの時家の近辺に落ちた雷は、ラムのUFOが到着したときにおきた光だ。
鬼ごっこを始めてから8日目、
俺がタイプスリップをして8日目、
ラムのビキニがなくなっていたこともツジツマが合う。
向こうの世界のラムが怒っていたのは、俺がラムのビキニを取った事件があったからだ。

でもまぁ、そういう御託より、
俺が一番大切だと思ってる日なんて、ラムに初めて会った、あの日に決まっているじゃないか。

「でも良かった!ダーリンが無事に戻ってこれて…」

そんなことよりもっと不可解な事は、どうして過去のラムは俺に話し掛ける事ができたんだ?
タイムマシンでタイムスリップした人の姿は、タイムスリップ先の人物には見えない筈。
それはさっきラムが説明した通り。
確かにしのぶもチェリーもメガネ達も、俺の姿に気付いていない様子だった。
それじゃあどうして、ラムだけは俺と会話をする事ができたんだ?

「どうしたっちゃ、ダーリン。何考えてるっちゃ?」
 ラムが上目遣いで俺の顔を覗き込んだ。ラムの顔を見るとポケットに入りっぱなしだった人形が目に入ってきた。

 
これで、うちとダーリンはいつでも一緒だっちゃね

―――そうか。
お前はそう言ってくれたんだっけ。
だからちょっとくらい住む世界がずれていたって、俺に気付いてくれたんだっけ。


「さて、もう帰るか?」
「う…うん!」

 
ようやく帰れるんだ。俺の家に。俺たちの家に。
良かった、二人で帰ることができて。

 
END




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