「聖なる夜の、墓参り」作:ネコこたつ、挿絵:ももろんさん




・・・12月25日、クリスマス。 


今日は面堂邸で、豪華なクリスマスパーティーが開かれる日だ。 
最初は女性陣のみの招待であったが、まぁいつものごとく、
ドサクサまぎれに 男達も行くことになった。(食い物目当てであろう・・・) 

友引町は、雪は積もっていたものの、降ってくる気配はなさそうだった。

「さ、ダーリン。そろそろ終太郎の家に行くっちゃ!」
外行き用の服の上からコートをまとったラムは、あたるをせかした。

「・・・あ、俺、ちょっち寄るとこあるから、先行ってろよ。」 
ちょっとシドロモドロになりながら、あたるはそう答えた。

「『寄る所』?・・・まさか、またガールハントして行こうなんて考えてるっちゃね〜・・・(バババ・・・)」

「違うよ。なんならラム、お前も来るか?さ、行くぞ。」

「・・・ちゃ?・・・」 


いつになくあっさりと返答すると、あたるはコートを着込んでさっさと出て行ってしまった。 
ラムは不信に思いながらも、とりあえずあたるの後を追うことにした。

行き先は、面堂邸とは逆方向とまではいかないまでも、
かなり外れた方向に、 しかも電車を使って移動することになった。


「ね〜ダーリン。ほんとにどこに行くっちゃ?・・・」

「・・・来れば分かるよ・・・」 

あたるはそう答えながら、視線はどこか遠くの方を見ているようだった。
クリスマスの町にあふれかえってるカップルにも目もくれず、どこかに向かっている。

(・・・な〜んかおかしいっちゃ・・・) 

駅で電車から降りた後も、少し歩くと行って、スタスタと歩き出した。 
楽しそうに歩いたり、どこかに向かっているカップルの中をかきわけるように、二人はどこかに向かっていく。

「ね〜ダーリン、ウチ、こんなのが欲しいっちゃ〜!」

「知らん知らん。」

「も〜・・・せっかく繁華街まで来たんだから、少しはウインドウショッピングでもしてくっちゃ!」

「今日はそんな目的で来たんじゃないの!」

「ケチ!」

「ほら、さっさと行くぞ。」

「あ、待つっちゃー!」 

そうこうやり取りをしている間に、あたるはさっさと歩きだした。

「せめて腕組んで歩くっちゃ。」

「しつこいっ!!!」


途中、あたるは花屋によって、花束を一つ買った。

「花なんか買って、どーするっちゃ?」

「うん・・・まぁ、ちょっとな・・・」 

(誰かの見舞いかな?)


数十分後、人気もだんだんとなくなり、海の見えるところまで歩いてきた。 
冷たい潮風が、都市部に住んでいるとなんだかとても新鮮なように感じる。


「わー、ダーリン見るっちゃ!冬の海ってなんだか新鮮だっちゃー!」

「アホ。寒いだけじゃい。行くぞ。」 


そう言い出すと、海が良く見えそうな、少し高い丘の上を上り始めた。

(あれ?なんかここ、前に来たことあるっちゃ・・・)


登ってみるとそこは、霊園だった。 


名前は「海の見える丘」 
何もこんなクリスマスに墓参りしなくても・・・とラムは思いつつも、
とりあえず誰の墓参りなのか聞いてみることにした。

「今日は一体、誰の墓参りだっちゃ?ウチも知ってる人け?」

「あぁ、お前も知ってるだろ・・・ほら、前に5月頃に成仏しちゃった、望ちゃんだよ。
あの子、今日が命日だろ?」

「あ!・・・・」 

そう。12月25日、クリスマス。 
病弱な体で、入院生活ばかりを送っていたが、窓から元気に学校へ走っていくあたるの姿を見て
(ものすごぉ〜・・・い!勘違いなのだが)あたるに憧れていた、あの望ちゃんの命日である。 
結局、望ちゃんはあたるとデートし、 雪のように降り注ぐ花火の火の下であたると腕を組んで、成仏していった。

「そー言えば・・・そうだったっちゃね・・・」 

「俺達が思い出してあげないと、望ちゃん、可哀想だろ?・・・」

「・・・だっちゃ・・・」

「さ、花供えて、お参りしよう。」

「うん!」 


もうすでに母親が来たのだろう。一つ花束が供えてあった。
その横に、持ってきた花束を置くと、あたるとラムは、お祈りした。


「・・・さてと・・・」 

あたるが立ち上がると共に、ラムも立ち上がって、墓を後にしようと、歩き出した。 

・・・と、あたるが付いて来てないことに気づき、振り返ってみた。 
あたるは墓の前で、手をコートのポケットにつっこんだまま、ぼーっとしていた。


「・・・何考えてるっちゃ?ダーリン?・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」


無言の時間が、しばし過ぎた。 

少しして、先に話しかけてきたのは、あたるの方だった。


「・・・望ちゃん・・・さ・・・」

「・・・え?・・・」

「望ちゃんさ・・・俺なんかみたいな男にホレて・・・ そんで、あんなテキトーなデートして、
でもあの子は満足してくれて・・・  そんで成仏して・・・
本当に・・・あの子、幸せだったのかな?なんて思ってさ・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」 


あたるにとっては、軽いノリのデートであった。 
むしろ、5月のクソ暑い日に、マフラーやらセーターを着せられていた為 
すぐにでも終わって欲しいと、心の中では思っていた。

おそらく、あの花火がなければ、あの子の前から逃げ出していたか、 
脱水症状を起こしてぶっ倒れていたか、どちらかだったかも知れない。 

でも、望ちゃんにとっては、あれが『生まれて初めてで、最後のデート』だったのだ。



「・・・・ウチが・・・・」

「え?・・・・」

「もし、ウチが幽霊だったら・・・」

「だったら?・・・・」

「それでもやっぱり、幸せに成仏できたと思うっちゃ・・・」

「・・・なんで?・・・・」

「上手く言えないけど・・・望ちゃん、本当に楽しそうだったっちゃ。 
 最初は焼もち焼いてたけど・・・見てたら途中で、そんな気がしなくなったっちゃ・・・」

「・・・そうか・・・」 


そうつぶやくと、 あたるは振り返って歩き出した。



「さ、行くぞ。面堂達からどやされるからな。
『貴様あたる!ラムさんとこんな時間までどこにいた!?』とかなんとかM君もうるさいだろうしな。」

「だっちゃ!(クスクス)」 


と、その時だった・・・

チラチラと、そして少し経つと、深々と、雪が降り始めた。(挿絵:ももろんさん)
「・・・あ?・・・・雪?・・・」

「・・・・だっちゃ?・・・・・」



チラチラと、そして少し経つと、 深々と、雪が降り始めた。



「ホワイトクリスマスだな・・・こりゃ・・・」

「望ちゃんからのクリスマスプレゼントけ?」

「かもな。ハハハ・・・」 

そう言うと、二人は雪の積もった丘を、降りて、再び駅に向かおうとした。


丘を降りたところで、あたるがポツリとつぶやいた。


「・・・ラム・・・」

「・・・ん?・・・」 

「少し・・・遠回りしてくか?・・・・」 

「!・・・・うん・・・・」




-fin- 





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