「友引高校卒業式」作:ワンさん



キーンコーン…キーンコーン…
 チャイムの音が学園中に響き渡った。
毎日の様に聞いていたチャイムだが、今日はとても懐かしい響きに聞こえた。
「この音を聞くのも今日が最後ですね…。」
 しのぶの横で、面堂が桜を見上げて呟いた。今日は友引高校の卒業式なのだ。
 卒業式を終えて校舎を出たあたる達。彼らの手には卒業証書が握られていた。
「…にしてもよー…メガネの答辞が長過ぎんだよなぁ。俺、足がつっちまったぜ。」
「何だとっ!?あたる!俺があの答辞を考えるのにどれ程苦労したか分かってんのか!」
「考えたって…お前、答辞の時間の半分以上、涙声で何言ってるか分からなかったぞ。」
「なっ…。」
 こうして話している風景はいつになっても変わらないのだ。
「よーっしっ!じゃ牛丼でも食いに行くか!」
 パーマが威勢のいい声で言った。
「さんせーいっ!」
 一同は万歳をして同意した。
「おい、諸星。ラムさんの姿が見当たらんが…」
 面堂が辺りを見回しながら言った。
「ラム?さぁ、俺は知らんぞ。それより面堂、お前も行かんのか?牛丼屋。」
「行く訳なかろう。僕はこれからしのぶさんをお送りして帰る。」
 そこへカクガリが割り込んで言った。
「どーせ、コレが最初で最初で最後になるんだからよー。今日くらい一緒に行こうぜー。」
「とかなんとか言って、僕に代金を支払わせるってハラだろう。じゃあまた。」
 面堂はしのぶと共に桜吹雪の中へ消えて行った。
「ちっ…バレてたか。」
 面堂が去った後、あたるは舌打ちをした。
「じゃーあたる!お前、ラムさん探して来いっ。」
「…へ?牛丼屋行かねーのかよ?」
「ラムさんが居なくちゃ面白くもなんともないだろーが。
俺達はサクラ先生に挨拶してくるから。30分後にまた校門の前でな。」
「しょーがねーなっ…。」
 あたるは再び校舎の中へ入り、ラムを探しに行った。校舎の中にはまだ卒業生が泣きながら挨拶に回っていた。
「ラムーっ!…ったく何処に行ったんだ…。」
 とその時。―――ドカッ!!
 あたるは誰かとぶつかってしりもちをついた。
「あ…ててて…ん…ああっ!温泉マークっ…」
 ―――そーいえば、担任なのにロクに挨拶もしてなかったな。
 温泉はあたるに気付いたようだが、何も言わずに下を向いていた。
「…ん?どーした、温泉。そうか、誰も挨拶に行かなかったモンでふてくされてんだな?」
「ふっ…ふははははっ!」
と、温泉は顔をあげた。
「…ん?」
「ふははっ!俺にとってこんなに嬉しいコトはないぞっっ!!
お前らみたいな問題児とようやくおさらばできるなんてなっ!これで俺もゆっくり嫁探しができるってもんだっ!」
「なっ…///」
 あたるはカチンときた。
「けっ!今まで嫁ができなかったのは俺達のせいじゃなくて自分自身の顔の問題だろーがっ?温泉っ。」
「もっ…諸星、貴様っ…!」
 ふとあたるは時計を見た。
「おっと…早くラムを探さないとなっ。じゃーな、温泉。」
 あたるは温泉に背を向け走り出した。
 あたるは校内のあるゆるトコロを探し回った。理科室、音楽室、体育館、屋上…。
一つ一つの教室に数えきれない思い出があったけど、そんなコトは気にも止めずにラムを探して走り回った。
「時間がないな…。」
 あたるは時計を見た。
「あと行ってない教室はと…」
―――2年4組の教室だな。
 あたるは2年4組の教室の扉を開いた。そこには窓辺から外の桜吹雪を眺めるラムがいた。
「……はっ…やーっと見つけた…あー疲れた…。」
 桜吹雪が窓から教室の中に入り込んできた。その景色は思わず圧倒してしまう程美しいものであった。
「何見てんだ?ラム。」
 ラムはようやくあたるに気付いた。
「ダーリン…。」
 あたるも窓辺から外を眺めた。メガネ達はまだ校門に来ていなかった。
―――まだサクラさんに挨拶してんのかな。
「あのね、ダーリン…。」
「…ん?」
「温泉マークが泣いてたっちゃね…。」
「…え?」
 あたるは窓辺に寄りかかりながらラムの方に目を向けた。
「泣いてたっちゃ。」
「…ふーん…。」
―――温泉が泣いてた?あの温泉が…だってさっきまでは…
「ダーリンは…?」
「え?」
「ダーリンは…悲しい?」
「…別に…。」
 あたるは桜の花びらがヒラヒラと落ちていく風景を眺めぶっきらぼうに答えた。
「うちは…悲しいっちゃ…。」
 ラムのその言葉にピクリとしたあたるはラムの方に視線を向けた。
さっきまで顔をあげて窓から桜吹雪を眺めていたラムだが、今は腕の中に顔を埋めて震えていた。
―――泣いてるのかな。
 あたるはラムをじっと見つめた。
「うち…うちは…この学校が…大好きだった…ダーリンも…
終太郎もサクラさんも…メガネさん達も…しのぶや竜之介だって…大好きだったっちゃよ…。」
 ラムは涙声であたるにそう言った。あたるは何を言えばいいのか分からずただじっとラムを見た。
「…あの時あんなに楽しかったのに…ずっとずっとこのままでいたいって思ったのに…
終わりがきて…もうみんなと一緒にこの学校に来れないなんて…うちは…信じられないっちゃ…。」
 あたるはラムの方を見続けてこう言った。
「俺は…嬉しい。」
「…え?」
 ラムは涙で濡れた顔をあげてあたるの方を見た。
「俺は…嬉しいよ。…ラムがこの学校のコト、そんなに好きでいてくれたなんて。」
 あたるは優しい表情でラムを見た。あたるなりの精一杯の慰めなのだ。
「まぁ、俺だってなー、それなりに悲しいよ。3年間通いつめた
この学校と今日とおさらばなんてな。でもせっかく思い出として残ったんだから…またいつでも思い出せばいいさ。」
「………。」
 ラムは涙をぽろぽろ流して頷きながらあたるの話を聞いた。
「まー…ホント長いようで終わってみるとあっという間だなー。3年間っていうのは。」
 あたるはまた桜の方に目を向きなおして言った。ラムはあたるの横顔をじっと見つめた。
「今考えると…校長や温泉マークも…結構いい先生だったのかもしれないなー。」
「………。」
「高1の頃は…ラムが来て…こんな生活になるとは思ってもなかったけどな…。」
 ラムはあたるのその言葉を聞いてドキリとした。
「……ダーリン…。」
「ラム。」
「え…?」
「地球に来れて…良かったか?」
 あたるはラムに優しく微笑みながらそう言った。あたるの顔がとてもとても温かく見えて、ラムはまた涙を流した。
「うん…うん…うち…地球に来て…ダーリンに会えて…良かったっちゃよ…。」
「…だろ?ここは俺のご自慢の星だからな。」
 あたるは笑ってラムの方に顔を近づけた。
「…だから泣くなって、ラム。」
「……嬉しいっちゃよ…ダーリン…うち…ダーリンの家で…ずっと一緒に暮らしていい…?」
「……そうだな。」
 あたるはラムにそっとキスをしようとした。
 ……と、その時…
――――ガッ!!
「いぃっ…!?」
 あたるの頭に石ころが直撃した。窓辺の下から誰かが狙って投げつけたようだ。
と、校門のトコロにはメガネ達がじっとこちらを見ていた。メガネはカンカンに怒りながらこう言った。
「あたる―――っっ!貴様ぁ、約束の時間を破り、そんなトコでラムさんにハレンチ行為をっ…許せ―――ん!」
 メガネ達はあたるにどんどん石を投げつけた。
「いてっ…いていて…止めんかっ!よし、ラム行くぞ。」
「え…何処へ?」
「メガネ達と牛丼食いに。すっかり忘れてたぜ。」
 あたるはラムの手をひいて大慌てで2年4組の教室を出て階段を駆け下りた。
ラムはあたるに引っ張られるようについて行く。
―――そういえば…こいつと手ぇつなぐの…すごい久し振りだな…。
 あたるはラムの手をひきながらそう思った。
 …と、向こう側の廊下の方から温泉が歩いてくるのが見えた。あたるはそこで足を止めた。
「どうしたっちゃ?ダーリン。」
「いやちょっと…おーい!温泉ーっ!」
 あたるはラムをつれて温泉の方へ駆け寄った。
温泉マークは何も言わずに顔をあげてあたるを見た。あたるはにっこり笑った。3年間ずっと変わらない笑顔で。
「温泉っ!世話になったな、いろいろ。ありがとな!」
 あたるは力強くそう言って、そのままラムをつれ、校門に向かって駆けて行った。
温泉はだんだん遠くなるあたるとラムの後姿を見送った。
「ああ…ああ、そうだな。こっちこそ…世話になったな…。」
 温泉は涙を流し、独り言のようにそう言った。温泉があたるとラムの姿を見るのはこれが最後であった。
 一方あたる達はようやく校門に到着した。
「いやあーっ、わりぃわりぃ。」
「遅いっ!ったく、今日は全てお前のおごりだ!いいなっ!」
「なんでそーなるんだ!」
 一同はペラペラとそんなコトを話しながら牛丼屋へ向かった。
牛丼屋へ行く為には桜並木を通って行く。その桜並木は今満開で、素晴らしい程綺麗だった。
「わぁーっ…キレイだっちゃー!」
 ラムは声をあげてそう言った。
 そこでチビが何かを見つけたようだ。
「あ…あれ?メガネメガネ。」
「なんだ?」
「ほら。」
 チビが指差した先には、一緒に桜並木を歩く面堂としのぶが居た。
「あれ?あいつら帰ったんじゃないのか?」
「おーい!面堂ーっ!」
 カクガリの掛け声に面堂達は気付いた。一同は2人に近付いた。
「なんだ?お前達、まだ牛丼屋に行ってないのか?」
「まあな。しのぶ達こそこんなトコロで何やってんだ?」
「あたし達は、綺麗な桜並木で散歩してから帰りましょうってコトになって…。」
 ラム、あたる、面堂、しのぶ、メガネ達は一緒に桜並木の中をゆっくり歩いた。
 あたるがぼそっと面堂に耳打ちした。
「…しのぶに手ぇ出したんじゃあるまいな。」
「何を言っとる、僕は君とは違って、軽はずみにそういうコトはしないぞ。」
「ホントだろーな?」
 と、2人の会話にメガネ達が割り込んできた。
「そーだっ!あたる!貴様こそ、ラムさんと何してたんだ!?あの時!」
「何ぃ!?諸星貴様、ラムさんに何をした!?」
「なななな…何もしとらん!///」
 あたるは顔を赤くして首を振った。
「怪しいっ…さては貴様、ラムさんに無理矢理っ…!」
「何考えてんだ馬鹿!何もしとらんっちゅーに!」
 男共の言い争いの光景を見て、しのぶは溜め息をついた。
「まーったく…いつまでたっても変わんないわね〜…。」
 ラムはその光景を微笑みながら見続けた。あたるはラムのその笑顔に気付いた。
目が合ったあたるとラムはにこっと笑い合った。
「なあみんなっ!俺達これからも、ずーっと仲間だよな?」
 あたるは急に大声をあげてこう言った。面堂やメガネ達の前でこんなことを言うあたるは、
かなり照れ臭かったようだが、それでも笑顔で一同を見た。

―――うちはこの学校が大好きだった…。
ダーリンも終太郎もサクラさんもメガネさん達も…しのぶや竜之介だって大好きだったっちゃよ。
―――そうさ、俺だって大好きだったよ。この学校も、こいつらのことも。

「あぁ、そうだな。」
 一同を代表して面堂がそう言ってくれた。誰もが皆、優しい目であたるを見つめた。あたるも笑顔でそれに答えた。

「よーし!じゃあ誓いの儀式だ!みんなで卒業証書を空に投げつけるぞ!」
「おっ、いいなそれー、カッコいいじゃん?」
「じゃあ、せーのだぞ。思いっきり投げつけっからなっ。」
「せーのっ……」

8つの卒業証書の筒が空を綺麗に舞った。

ありがとう!友引高校!さようなら!

―――遠くから友引高校のチャイムの音が聞こえてきた。毎日の様に聞いていたチャイムだが、
その時あたるにはとてもとても美しい響きに聞こえたのであった。




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