人生と言うものは決して後戻りできないもの。
散々迷った末に選んだ選択気が間違っていたとしてもやり直す事は決してできない
ましてや軽々しい言動によって犯してしまった過ちならなおさら後悔するだろう。
けど・・・たった・・・たった一度だけそれを修正する機会を得たとしたら・・・あなたはどうする?
「彼」の場合は・・・





うる星20周年記念作品
「雨のち晴れ」作:PKOさん、挿し絵:野分涼さん





「バカ野郎!もう出ていけ!」
「もう・・・もう・・ダーリンなんかだいっきらい!」
バタン!
雨が激しく打ちつづける夜。そういってラムの奴は家から出ていった。
原因は他愛もないいつも通りのもの。俺の浮気で怒ったラム、それに対して反発する俺。それがちょっとこじれただけだ。
けど・・・今思えばあの時に気がついているべきだったんだ。
何故ラムが部屋を「飛んで」いかず「走って」でていったか。
あの時のラムは変に苛立ってて顔も何か赤かった。
後でテンに聞いた話だと鬼族は風邪が極端にひどくなるといらいらしたり飛ぶことが困難になったりするらしい。


ラムが病院に運びこまれたのを聞いたのはそれから十分後のことだった・・・

そして俺が病院へ到着する前にラムは息を引き取った。
目撃者の話だと交差点でふらふらしながら車へ向かってったらしい。何か目が虚ろだったとも聞いた。
さらに医者の話では最後まで「ごめんね、ダーリン・・」と言っていたということだ・・・

「貴様が・・・貴様がああ!!」
面堂やメガネ達の罵倒が耳を通り抜ける。どうやら俺は今殴られているらしい。
しかし俺は目の前の、もう眼を開けないその瞼をじっと見つめたまま動けなかった。
そして心の中でずっと呟いていた。
「なあ、嘘だろラム?」
しかし・・・これは現実なのだ・・・


ガバッ!
(・・ハァッ!!ゆ、夢か・・・)
「ふう・・・十年経ってもこんな時に見る夢は同じか・・・」
激しくふる雨を窓から眺めながら俺は呟いた。
こんな天気の日は必ずあの日の夢を見る。
目に涙の痕がある、どうやら俺は泣いていたらしい。
あれから十年。心に大きな何かを失ったまま俺は卒業し、就職し、そして今に至る。
今更悔やんだってラムはもう帰ってこない、そう言い聞かせてるはずなのに・・・


「だからね、もう十年よ十年!忘れろとは言わないけどそこまで思い詰めることないじゃない!」
その日の夜の飲み屋。
こんな日はいつも暗い俺にしのぶは励ましてくれる。
彼女は独身だが今でも良い友達だ。
「そりゃね、あんたが悪いってとこもまああるわよ?けど・・・人生はやり直しがきかないのよ?後悔したって意味がないのよ!?」
「ああ・・・」
「だから!いつまでもラムの面影背負ってないで!」
「ああ・・・」
「・・・もう!」
ほとんど反応しないまま俺達二人は店を出て別れた。
家に帰る途中で俺はあることに気がついた。
「さ、財布忘れた・・・」
戻ろうか?いや、もうこのまま歩いて帰れる距離だ。
時計を見てももう午前0時。遅い時間だ。
しかしあるかどうか確認だけはしておきたい。
こういうときに限って携帯は持ってない。
「どこか電話は・・・」
あれから携帯電話の普及によって大分公衆電話と言うものは減ってきた、そばにあるといいが・・・
「・・・ん?あった!」
しかし見つかる事は見つかったが・・・こんなとこに電話機あったっけ?
しかも形状がやたらレトロだ。俺達が高校生くらいだった時の黒電話。もちろんテレカなんて使えない。
「十円あるかな・・・」
ポケットの中にはあいにく一枚しかない。
「まあ、ちょっと聞くだけだ。十分だな・・」
けどこれ動くのか?そんな思いで俺はダイヤルを回した。
トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・
「はい!こちらお好み焼きのじぱんぐで〜す!」
「な!?け、圭!?」
そこにどういう訳か圭が出てきた。しかもやけに声が若い。
「おう、あたるじゃねーか。どうした、なんか声が老けてねえか?」
「はあ?それよりなんでお前がそこにいるんだよ、大体じぱんぐはもう五年前につぶれたろ!」
「何いってんだ?俺がここでバイトしてるってのは前からしってるだろーが。しかもなんでここがつぶれなきゃなんねーんだよ」
「だってそこのおばちゃんが亡くなって・・・」
「おばちゃんピンピンしてるぞ・・・ってお前それよりいいのか?」
「あん?何が?」
「ラムちゃんがなんかふらふらしながら雨んなか歩いてたが・・・お前らまた喧嘩したの?」
「ラム?なんで!?だってあいつはもう・・・」
ツーツーツー
そこで十円玉の分が切れてしまった。
「くそっ!もうないのか!?」
いくらポケットかきまわしてももう一枚もない。
「あれは確かに圭の声だった・・・」
あいつはこんな事する奴じゃない。
けどあいつがお好み焼きのじぱんぐでバイトしてたのは十年も前の話だ。
まさか・・・そんなことが・・・
「この電話・・・十年前に繋がってるのか?」
しかもあの日に・・・

その夜、帰ってから金をかき集めて戻ってきてもそこには何もなかった。
そして俺はやりきれない思いで眠りについたのだった・・・



「どうしたの?目にくまができてるじゃない?」
次の日、出社した俺にしのぶは一番にそう言った
「そうか?いやちょっと考え事しててな・・・」
「・・・ほらあんたの財布!昨日店に忘れたまんまだったでしょ!」
「あ、ああ。ありがとう・・ところでさ、しのぶ」
「何よ」
「圭、今どこにすんでたっけ?」
「え〜・・・確か今海外に出張とか言ってたわよ〜」
「そうか・・・」
確かめようがないな、けどあの番号が国際電話じゃなかった事は確かだ。するとやはりあれは十年前に・・・
「なあ、しのぶ」
「今度は何よ?」
「過去をさ、変えることって出来ると思うか?」
「はあ?何いってんのよ。んな事出来るわけないじゃない!」
「そうだよな、すまん忘れてくれ。」
普通の方法では出来ないだろう。しかしあの電話を使えば・・・


そして俺は昨日と同じ時間、あの公衆電話を再び見つけた・・・
雨がポツポツと降り始めている。
俺の考えが正しければ・・・今あの家に電話をかけるとまだラムがいるはずだ・・・
十円を入れ俺は祈るような気持ちでダイヤルを回した
トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・
「頼む、出てくれ・・・」
トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・ガチャ
「はい・・・諸星ですが・・」
やった!繋がった!電話の向こうには確かにラムがいる!
風邪を引いているせいか声の調子は変だが確かに十年前に死んでしまったラムだ!
「お、おれだ!あたるだ!」
「ダーリン?なんで?さっき上で喧嘩したばっかりなのに!」
「そんな事はどうでもいい!頼む!外に出ないでくれ!」
「何を言ってるっちゃ!?出ていけって言ったのはダーリンのほうだっちゃ!」
「それは確かに俺だったがあれは今の俺じゃなく・・・」
「?」
「とにかく!俺が悪かった!謝るから・・・頼むから・・・」
「・・・何をいってるのかさっぱり理解できないっちゃ!あれだけ言っておきながら・・・
それにダーリンにしては声がおかしいっちゃ!おまえ本当にダーリンけ?」
「本当だ!俺は諸星あたるだ!」
「信用できないっちゃ!例えダーリンだとしても・・・ダーリンなんてだいっきらいだっちゃ〜!!」
この間も雨は激しくなり俺の体を打つ。まるであの日の俺を責めるかのように。
「お願いだ・・・失って・・・初めて気がついたんだ・・」
「・・・え?」
「お前がいなくなって、バカだけど初めて気がついたんだ。俺は・・俺はお前が・・・」

ガチャン、ツーツーツー

「何でこんな時に!?くそ!」
俺は再び十円を入れダイヤルを回した。
トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・
「くそ!何でつながんないんだよ!!」
トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・
トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・
虚しくダイヤル音だけが耳に響く。
「やっぱり・・・過去を変える事なんてできねえのかよ!?」
俺は雨に濡れながら電話機に突っ伏して泣いた・・・




「どうしたっちゃ?ダーリン?そんなに雨に濡れて?」(挿絵:野分涼さん)
「どうしたっちゃ?ダーリン?そんなに雨に濡れて?」
・・・今、誰の声がした?ダーリン?
俺はおそるおそる後ろを振り向いた。
「やっぱりダーリンだっちゃ!けどどうしたっちゃ?泣いていたのけ?」
「ら、ラム・・・」
ど、どうして?
「そういえば・・・こんな雨の日だったっちゃね〜」
「・・?何が」
「ほら、もう十年も前になるっちゃ。うちがひどい風邪を引いている時
ダーリンと喧嘩してダーリンが出ていけ!って言って・・・」
「それから?」
「その出ていこうとした矢先に電話がかかってきて。
あれって今となったら誰だか分からないけどずっとごめん、ごめんばっかり言って・・・」
「そして途中で切れたんだろ?」
「あれ?なんで知ってるっちゃ?」
当たり前だ。さっきまで俺が話しかけてたんだから。
「けどその後、なんか喧嘩してたのが嘘のようになんともなくなってきてお互い仲直りしたっちゃ。
あれって結局誰なんだったっちゃ?ダーリンけ?」
「違うよ、俺じゃない」
あの頃のな。
「ふーん・・・あっ、雨がやんできたっちゃ。」
雨雲が晴れ綺麗な月が顔を出し始めた。
あたかも全ての呪いが解けきったきったかのように

これは・・この結末は・・・予め決められていたものだろうか?
いや、そうは思わない。
ささやかだが俺は過去を変えたんだ。
「ダーリン、こんなに濡れてるっちゃ。早く家に帰って着替えるっちゃ。」
「そうだな・・帰ろう、俺達の家へ・・・」

いつも歩いてるこの道。今まではずっと一人で歩いてきた。
けど今は違う、今は・・・最愛の人と共に・・・



Fin






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