第8話

「・・・何てこった。」
信じられない光景を目の前にゆっくりと状況を把握すると竜之介は自分自身を落ち着
かせ、そう言った。それもそのハズ。何の変哲の無い地面が突然スイッチ1つでぱっ
くりと左右に開き分かれ、そこからエレベーターが顔を覗かせていたらラムでさえも
(多少は)驚くであろう。それが竜之介というごく普通・・・・かどうかは自信はな
いが、とにかくごく普通の女(の子?)に起きたらこれは立派な『世界摩訶不思議珍
事リスト』に登録されるくらいの驚きと衝撃を受けてもおかしくない。
「・・・あっ、行かねえと。」
と、事態に見入っていた竜之介がやっとエレベーターに乗る、という事を思い出し
た。
時は既に3時過ぎ。慌ててエレベーターへ乗っかった竜之介であった。

「おう、久しぶり!」
(わあーっ!わあーっっ!!)
「元気してたぁ?」
(きゃあー!きゃあー!!)
「こっち、こっち!」
竜之介がエレベーターを降りるとワアッという熱気と、まるで山の中で太助を求めて
いるかのような大声で喋る声が喧しいくらい耳へ入ってきた。上記で述べた発言はホ
ンの一部であって、実際はあの何倍、何十倍もの会話がとてつもない音量で交わされ
ていたのである。
「・・・何てこった。」
未知の世界へと放り込まされた錯覚に陥りかけた竜之介がその光景を目の前に今日2
回目の何てこった発言。
・・・と、突然ボーイが声をかけてきた。
「すみません、お客様。」
「・・・あっ、ああ?」
ボーイの声で少しばかり現実へと戻った(ような気がした)竜之介は振り向きながら
返事をした。
「会費の方はお支払い済みでしょうか?」
「・・・かいひ?」
聞き返す竜之介。
「はい、会費です。」
「・・・・・・会費?」
断っておくが、別に会費の意味が分からない訳では無い。お金を払わないといけな
い、という事に驚いたのである。何てこった!金なんて持ってきてねえぜっ!!
「あのよお〜、金・・・ねえんだけど。」
と、小さな声で言ったが周りの騒音で全く聞こえていない様子。
「何かおっしゃいましたか?」
聞き返すボーイに竜之介は恥を忍んで(今更恥じも何も無いが)
「だ〜か〜ら〜よお、おれ金なんて持ってねえって!」
と、周りに負けず劣らずの大声で言った。
「しかし、お客様・・・・・」
とボーイが言いかけた時、竜之介の背後から懐かしい声が届いた。
「竜之介さんじゃありませんか!」
面堂終太郎登場である。

「この人は払わなくて良いんだ。」
終太郎が竜之介の前に出てそう言う。
「しかし若・・・ルールでは・・・・」
と、おどおどしながら言うボーイ。
「良いんだ。」
それだけ言って竜之介を連れさっさとその場を離れた。
「いや、すいませんね。気が利かないボーイで。」
歩きながら終太郎が言う。
「それより、本当に良いのか、金払わなくって?」
なら払って下さい、と言われても払う金も無いし、払う気も無いがあえて聞いてみた
のは礼儀である。
「良いんですよ、竜之介さんは。」
「おれは・・・・・?そう言えばさっきのボーイ、ルールが何とかって言ってたよ
な?」
「あぁ〜気にしないで下さい、そんな事。」
などと言われると余計気になる、というものである。
「言いな!」
「あぁ〜いやぁ〜、実はルールとして男が全ての会費を支払わせる事にしてるんです
よ。」
竜之介は即座にさっきのボーイを殴りに行った。

「竜之介くん、こっちこっち!」
終太郎と別れると、しのぶが皿を片手に手を振っていた。
「おう、しのぶ!それにラム!!」
2人の所に向かう竜之介。
「遅かったっちゃねえ。」
例によって(?)タバスコを片手に言うラム。終太郎の命令でラムの為にとタバスコ
を大量に準備しておいたらしく、ラムも満足そうである。ついでに梅干しは絶対に使
うなとも命令したそうだ。
話は外れたが、竜之介は
「おう、色々有ってよお。」
と、曖昧に返答。
するとタイミングを図ったように、あたるの声がマイクを通して会場を包み込んだ。

「レディース・アンド・ジェントルマン、ボーイズ・アンド・ガールズ!ようこそ、
友引高校卒業一周年記念同窓会へ!!」
と、何故だか馬鹿に発音が良い英語で喋り始めた。誰もが驚いているようである・・
・・が、英語の発音に驚いているのではなく、あたるの格好に驚いているのであっ
た。何と、友引高校の制服を着ていたのである。どうも、せっかくの同窓会なんだか
ら再会だけでなく、高校時代を再現する必要が有る、とあたるが力説していた、とラ
ムが耳打ちしてくれた。
「制服を着たい人はボーイに言って下さい。男女、人数分準備してあります!」
とあたるが言うと、ほぼ全員面白半分で着替えに行ったのである。(中には本気で着
替えに行ったやつもいた)竜之介達はというと・・・・・
「おもしろそうね!」
「せっかくだから着るっちゃ!!」
って事で2人楽しそうに着替えに行き、竜之介は
「この機会に憧れのせえ〜らあ〜服を着てみるか?いや、ここは昔を再現って事で学
ランにするべきか・・・・?」
などとブツクサ言いながら2人を追いかけていたのである。

「では、開会の儀。」
あたるの声で喧しかった会場は一瞬にしてしんと静まった。同窓会の集まりが一転し
て高校生の課外授業に見えてしまうのは、結局全員が制服に着替えてしまった、とい
う結果である。
「本日は誠に・・・・」
と、あたるが真面目くさって挨拶を始める。
「諸星も変わんねえ〜なあ、制服着るとまんまだぜ。」
と、あたるを眺めながら竜之介が言うと、しのぶが
「あら、竜之介くんだって全然変わらないわよ。学ラン着るとなおさらね。」
と有り難い(?)お言葉をくれた。
この発言で分かるように竜之介は結局学ランにしたのである。理由は・・・という
と、ただセーラー服が残っていなかった、というだけだ。そこで竜之介は考えた。何
故セーラー服は残っていなかったのか?思い出せ、諸星はさっき『男女、人数分準備
してあります!』って言ったよなあ?って事は普通にいけばせ〜らあ〜服は残るは
ず。いや、まてよ!そうか!!おれは学ラン組(?)にカウントされてるって事
か!?だとしたら立派な理由になるぜ・・・ってそんなんだったら許さねえっ!!・
・・・と、勝手に想像して舌打ちをする竜之介。
あながちその推理が間違っていないのが皮肉である。

かくして全員制服姿、という一風(十分)変わった同窓会が始まった。

つづく

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