第四話


ついこの間『期限・条件付きカップル』が誕生したと思いきや、もう期限の夏の終わりがやってきた。
2人がその間どうしていたかと言うと、竜之介が浜茶屋のバイトに明け暮れていたので
それ以上の進展はなく、せっかく東海林がデートに誘っても

「わり〜、パス。」

の一言で全てぱあになっていた。
おまけにその都度、東海林は「じゃあ、また今度誘うね。」の一言で諦めてしまっていたせいで
結局今日まで第2話以来、一回もデートをしていないという状態になってしまっていたのである。
(何故こんなに早く夏の終わりが?と思われるかもしれないが勘弁して頂きたい次第である。)

6時05分、竜之介は重い瞼を擦りながら枕元でカチカチと時を刻んでいる時計を見つめていた。
期限・条件付きの彼氏、東海林と付き合ってはや数ヶ月、今日がその期限の日である。
しかし、前文にも有る様にこの2人は特に進展無く過ごしてきたので、いまいち
『一様、恋人だった』という実感が竜之介の中では湧かなかった・・と言うより、
『恋人役』を果たした気さえしないのだ。原因は完璧、竜之介の方に有るのだが・・・
それなのに今日、憧れの物達を頂戴できるというのは正直嬉しい事だが、反面物凄く申し訳ない気持ちを感じていた。
「これなら1回くらいデートに付き合ってやった方が良かったんかなあ〜・・・。」
今更布団の中でそんな事を思ってももう、後の祭である。何とも言えない気持ちを抱き
早朝6時17分、竜之介はもぞもぞと起き上がった。今日の予定は・・・・・いや、今日の予定も浜茶屋のバイトである。

時計の針が7時30分を指した頃、『浜茶屋・海が好き』は他の浜茶屋が既に軒並
店じまいしているにも拘らず営業を開始した。そう。夏の終わりとなると察しの通り
荒波で、海水浴なんて出来るものではなく、客もさっぱりなので何処の浜茶屋も店じまいをしているのだ。
にも拘らず、唯一営業している『浜茶屋・海が好き』からいきなり叫び声が聞こえてきた。
「海のバカヤローッ!」
浜茶屋のおやじである。そんなおやじに竜之介は聞いてみた。
「・・・・おい、おやじ。今日も客来ねえ〜んじゃねえか?」
「海のバカヤロー!!」
「・・・・・赤字が出てもバイト代はきっちり貰うからな。」
「海の裏切り者ー!!!」
「バイト代は貰うからな。」
「・・・ミノカサゴ!」
「付合いきれねえな・・・・・。」
あくまでバイト代から話をそらそうとする浜茶屋のおやじの体質的な狡さに、竜之介
は怒りを通り越して思わず感心しながらも、ぐったり疲れた心身を激励しつつ
浜茶屋を後にし浜辺に向かって歩き出した。

そうして歩いて行くと、遠くから人影がゆっくりと現れてきた。
太陽の光を背にしながら歩いて来るその人影の姿はまるで、後光が差している神の様
であった。
「・・・・客だ!」
『お客様は神様です。』この言葉を初めて理解した様な気がした竜之介の前に現れた
『神』は・・
「やあ!!」
東海林だった。

「・・・んで、どした?」
浜茶屋の店内で腰を落ち着かせてからまじまじと竜之介が問う。
幸いにも、トラブルメーカーの『浜茶屋・海が好き』3代目、基、浜茶屋のおやじはその場には居なかった。
「ん〜とね、ほら、今日が約束の期限日でしょ?だから、藤波さんのご希望の品を尋ねに来たんだど。」
そう言うと、ポケットからペンとメモ用紙を取り出す東海林。
「で、何がご希望?」
いつもと変わらない笑顔で聞いてくる東海林を、遣る瀬無い気持ちで見つめる竜之
介。
「・・・・・。」
「・・・・藤波さん??」
「・・・気持ちだけ有り難く受け取っとくぜ。」
「え!?」
思ってもいなかった返答に一瞬戸惑う東海林だが、あたふたと喋り始めた。
「あっ・・・でも、約束は約束だし、ね?やっぱりそういうのはきちんとしておかないといけないと思うんだけど・・・
あ!もしかして余りにも希望の品が多いから遠慮してるとか??そんなの〜全然気にしないで。
・・・それともまだ決まってないとか?そうなの??
ど〜しよ〜、困ったなあ〜・・・今日中に買っちゃわないと駄目なんだけど・・・。」
「あ、いや、そお〜いうんじゃねえんだ。欲しいもんはいっぱい有るんだけどよ・・・
おれ、おめえの彼女らしい事1回もやってねえからさ・・・。何回もでえとに誘ってくれたってのにバイト
ばっかりやっちまってて・・・すまねえ。だからよお、おめえから何か貰うとか出来ねえ・・・
って言うか、そんな資格ねえなあ〜って思ってよ・・・・。」
「・・・・でも・・。」
「いいから、いらねえって。それよりさっき『今日中に買っちゃわないと』って言ってたけど何でだ?」
「え!?あ〜いやあ〜そのお〜〜・・・。」
何故か言葉を濁し始める東海林。何やら訳有りの様だが、表情と態度から察するに答えたくない様である。
だが、竜之介は容赦無く再度問いかけた。
「『そのお〜〜』・・・何だ??」
竜之介の容赦無い問い掛けにもごもごと返答した。
「・・・・・実は。」
「実は?」
「明日、留学するんだ。」
「!?」
(し〜ん・・・・・。)
何故か沈黙。
「・・・・あっ、『留学』っていうのは他所の土地、特に外国に在留して勉強するって意味だよ。」
「・・・・・・・す、すまねえな。」
恥ずかしそうに礼を言う竜之介。
「・・・ここまで言っちゃったら全部言っちゃおう。あのね、僕、
留学前に最高の思い出を作りたかったから藤波さんに恋人役をやってもらったんだ。」
照れ臭そうにそう告白する東海林。
「・・そうだったのか。初めからそう言ってくれりゃあ良かったのによ・・・
そしたらもっと、 ましな思い出作れたぜ、きっと。」
「そうかなあ?」
「そうだぜ。もっと、彼女らしい事してやれたと思う・・・。」
「・・・・彼女らしい事??」
「ああ。」
「・・・・・彼女らしいって例えば???」
唐突な質問をする東海林。
「例えばって・・・・、そうだなあ〜・・・でえととかする事とか?」
「デートねえ・・・なるほど。でも、僕等結局デートしなかったけど・・・・最高の思い出が作れたと思うよ、僕は。」
「でえともしてねえ、彼女らしい事もしてねえのにか?」
「うん。だって、彼女って言ったって色んな『らしさ』が有るでしょ?」
「・・・・『らしさ』?」
「そう。例えば、藤波さんの場合の『らしさ』は、彼氏がいてもいなくても自分の思うままに進んで行く。
相手が誰であろうと嫌なら嫌、良いなら良い。それが藤波さんの『らしさ』じゃない?」
「・・おれの『らしさ』??」
「そう。だから、藤波さんが誰かの『彼女』になったとしても
別に普段と変わらないままでいられるって事。それが、藤波さんの交際方法なんだよ。」
「・・・・おれの交際方法。」
難しい事を言われ少し戸惑う竜之介だが、何故か、東海林の言葉ひとつひとつが嬉し
く感じた。そして、最後に東海林が海に向かって叫んだ。
「そう!題して『竜之介式男女交際』!!」

太陽が地平線に半分隠されてしまうまで2人は話し込み、東海林は席をたった。
「もう、帰るのか?」
竜之介が問う。
「うん、明日早いからね。」
「・・・・・見送りに行ってやろ〜か?」
少し照れ臭そうに言ってみた竜之介。
「ううん、いいや。見送られると・・・・・別れが辛いから・・・。」
瞳を細めながら寂しそうに言う東海林。
「・・・・そうか。」
「じゃあ、ここでね。今まで有り難う。最高の思い出が出来たよ。」
そう言うと、東海林は1度も振り返りもせず去って行った。

「・・・・おれこそ、最高の思い出が出来たぜ。」
東海林の背を見つめながらそう思うと、何故か喉の奥から熱い物が込み上げてきた・・・・

≪おまけ≫ その頃浜茶屋のおやじはというと・・・・
「海のバカヤローッ!や〜い、のろま!のろま!」
・・・・を、1人、絶え間無くやっていた。 


続く


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