最終話


・・・桜。
気付けばもう桜の季節、4月に入っていた。
毎日が平和に過ぎ、同窓会以来高校の同級生とも連絡を取り合っている竜之介。
といってもラム・しのぶ辺りだが・・・
そのお陰とでも言おうか?とにかくお陰で東海林の事を忘れつつあった4月・・・
そんな時、嫌でも彼を思い出してしまう出来事が起こった。

「竜之介さまー!」
渚がパタパタと足音を立てている。
「・・・ぅんん?」
昼食を食べていた竜之介が上手く返事が出来ない返事をした。
「ねえ、ほら見て見て。珍しく(?)竜之介さま宛に届いた手紙よ。」
そう言って茶色の封筒を見せた。あくまで見せただけで手渡した訳ではない。
「・・・誰からだ?」
ご飯を飲み込み聞く竜之介。
「えーとねぇ・・・『し・・よ・・・う・・じ・・・・・さい』?」
渚が途切れ途切れにそう読み上げた。
「しょーじさい?」
「そう。『しょうじさい』からよ。何かお祭り関係か何かかしらね?竜之介さまそう
いう関係と親しみが有ったの?」
「・・・おい、渚。それってホントに『しょうじさい』か?そんなのに覚えねえ
ぜ?」
そう言いながら手を差し出す竜之介。手紙をよこせ、という意味らしいが渚には分か
らなかった。
「ほんとよ。ほら、『東』に『海』に『林』に『祭』。『しょうじさい』じゃな・・
・」
渚が言いきる前に竜之介が飛びかかって来た。無論その手紙を奪う為に、である。
何でえぇ!東海林からじゃねえかっ!!
この手紙の主が渚にばれたら破られる可能性大。反射的にそう思った竜之介は手紙を
さっさと奪い部屋を飛び出した。
「・・・竜之介さま?」
何が何だかよく分からない内にひとり部屋に残された渚。
「・・・・・匂うわね。」
女(?)の直感だった。

(すたたたたあぁーーー!)
全速力で走る竜之介。
「・・・ここまで来ればもう大丈夫だな。」
肩を上下させながら呟く竜之介。封を開ける手が多少震えていたのは緊張のせいか、
はたまた全速力の疲れのせいか・・・竜之介自身も分からなかった。
(びりぃ・・・・っ・・・・・ガサッ)
「・・・・・」
手紙は実にシンプルでたったの6行しかなかった。
挨拶で1行。現在向こうでの生活状況で2行。閉めの言葉で1行。追伸で2行。
「・・・な〜んでえ、これっぽっちかよ。」
といささか物足りない気味の竜之介。
「何がこれっぽっちなの?」
突然の背後からの言葉にびっくり仰天!
「なっ、渚!」
背と腕が壁にくっ付いている格好になったの竜之介。
「何がこれっぽっちなのよ?その手紙誰から?お祭り関係じゃないんでしょ?」
と、1度に3つもの質問した渚に対して竜之介は見事に
「ぃっいや、祭り関係だぜ。な、何かよ〜今度の祭りで是非踊りに来て欲しいって・
・・」
嘘をついた。
「嘘おっしゃい!竜之介さま1度だって踊った事があるの?お祭りっていったら商売
ばかりしてたじゃない。そんな見え透いた嘘ついてないでその手紙を見せてよ。」
渚にとっては見え見えのばればれの嘘だった。
「誰が見せるかよっ!」
開き直った竜之介。
「何よ、減るもんじゃないでしょ!?」
食ってかかる渚。
「イヤだっ!おれの手紙なんだからおめえには関係ねえ〜だろっ!!」
思いっきり拒否。
「いいじゃないのよー!」
そう言って無理矢理奪おうとする渚・・・・だがっ
「あっ・・・ばっばか!てめえ〜・・・・っ」
(・・・・・・ずっし〜んっ!!)
2人共バランスが崩れ床に潰れてしまった。

「・・・・・?」
「・・・・・・・・・・っ!?」
ちなみに説明しておくと最初の方が渚で後の方が竜之介の発言である。

「・・・・・・・・??」
「・・・・・・・・・・・・・・・っんぐ!?」
しばらくこの会話(?)が続いていた。
・・・なんでこんなに近くに竜之介さまの顔があるのかしら?
な、なんだあ?やけに渚の顔が近いけど・・・・それにこの感触はぁ?
・・・・・まさかっ!?
・・・・・まさかっ!?
(・・・・・・・・・・ぐぁばあぁっ!!)
いきなり起き上がると2人は目を見張った。
「あっ・・・・・あぁ〜っ!?」
「なっ・・・・・なぁ〜っ!?」

キスしちゃったっ!!
キスしちまったっ!!
・・・・・・・双方しばし言葉を失った。

充分経った5分後。
「・・・・・・・・・ねえ?」
しばらくの沈黙を渚が破った。
「・・・・・・・・・・・・・何だよ?」
遅い返答。
「何か怒ってない、竜之介さま?」
何時もとは違い控えめに聞く渚。
「・・・・別に。」
ぶっきらぼうに答える竜之介。怒鳴る威力も失せているようである。
「でも・・・・・・・」
声が弱々しい渚。
「怒ってねえって。事故だよ、事故。あれは事故。」
見事な棒読みで言う竜之介。
「竜之介さま・・・・」
渚が消えそうな声で言う。
「何だよ、さっきからボソボソ喋りやがって。いつも見て〜にはしゃげばいいじゃね
えかっ。」
そう言いながら渚を見る。
「はしゃぎたいけど・・・何か元気がなくて・・・・」
と次第に渚の体が・・・・
「・・・おい、渚・・・おめえ体が・・・・・透けて・・・・・」
竜之介が呟いた。
「・・・竜之介さま。」
そうだ。渚は竜之介とキスをしないと成仏が出来ない・・・つまり竜之介とキスをし
たら成仏してしまうのだ。
「・・・・・渚?」
「竜之介さま・・・・いやよ・・・成仏なんてしたくないっ!」
渚の頬に涙がつたう。
「な・・ぎさ・・・・?」
こうしている間にも渚の体は透けてくる一方だ。
「いやぁーーーっ!!」
止まらない涙を拭おうともせず渚は叫んだ。
「なぎ・・・さ?」
ただただ渚の名を呼ぶだけの竜之介。言葉が何も出てこないのである。
「竜之介さまぁー・・・・・っ」
竜之介に助けを求めようとも触れる事さえ出来なくなってしまった。求める手がただ
無意味に竜之介の体を貫くだけで・・・。
「いやよ・・・竜之介さまと離れたくない・・・・・・」
そう涙交じりの声で囁くと渚は・・・・消えた。
最期の言葉・・・・いきなり訪れた最期。竜之介は何も考えられないでただ渚の名を
呟いているだけだった。もういない渚に向かって何度も何度も・・・・。この結末を
ずっと前から望んでいたはずなのに何故か熱い涙が溢れた・・・拭うと渚の思い出ま
でも消えてしまいそうで流れるままに涙は流れ・・・・・・竜之介は堪えきれない想
いを放った。
「なぎさぁーーーーーーーっ!!」

夕方。
竜之介はあれからずっと渚が消えたあの場所で眠ってしまっていたようだ。
「・・・・・・・ん。」
目を覚まし辺りを見回すと窓から射している夕日の光をしばらく見つめていた。何故
か胸が締め付けられる想いの竜之介。
「・・・購買部に戻らね〜と。」
そう言い腰をあげた。
「午後店番してなかったから客がたまってんだろ〜な・・・。」
別に気にしてはいないが何か言っていないと落ち着かないので言ってみた。だが購買
部のある廊下に入っても誰1人として客はいなかった。
「あれ?おかしい〜ぜ。何時もなら2・3人は文句言いながら待ってんのに・・・
・。」
そう言ってドアを開けると・・・・
「あら、竜之介さまおかえりなさい。」
渚の笑顔があった。
「・・・・・渚?」
見事に信じられない、という顔になったの竜之介。
「何で・・・・おまえ・・・・」
「あーあのね、店番かわっておいたわよ。」
「そ〜じゃなくて、何でおまえ・・・ここに・・・・」
聞きたい事は決まっているのに言葉が出てこない。そんな竜之介を察し渚が言った。

「うん、実はね、最後に私が言った言葉覚えてる?『竜之介さまと離れたくない』っ
て。あの気持ちの方が『キス』の時よりも大きかったらしいの・・・。だから、竜之
介さまと離れるまではずっと成仏出来ないって事。だから・・・・これからもよろし
くね、竜之介さま♪」
渚が腫れた目で笑った。
「・・・・・渚」
しばし言葉を交わせないふたり。何だか照れくさいらしいが竜之介が口を開けた。
「・・・って事はなんだ!?渚がおれの事を諦めるまではず〜っと成仏しね〜って事かあ!?」
いささか大袈裟に言った。
「そうよ♪」
拝むかのように自分の指を絡めアーメンよろしくきゃぴきゃぴ言う渚。
「ったく・・・迷惑だぜ・・・・・。」
と、渚に背を向けぶつぶつ言いつつも竜之介の表情には思わず笑みがこぼれていた。
その拍子に瞳に光る涙が一滴床に落ちたのは本人以外誰も知らない。

「そういえば竜之介さま、あの手紙見せてよ。」
台所に立ち、いきなり忘れかけていた話題を持ち出す渚。
「・・・まだそんな事にこだわってんのかあ??」
呆気気味な竜之介。もういいじゃね〜か、と言いたい気持ちをあからさまに表情に出
している。
「いいじゃない、見せてよー!」
「やだっ!そんな事よりちゃんと料理しろって!!」
竜之介と渚。何時ものふたりなら本当に喧嘩(?)になり兼ねない状況だがこの日ば
かりは何時もと違い両方無意識に微笑んでいた。
こんな当たり前の日常が何よりも失いたくねえもんなんだな・・・・
そう感じながら竜之介は渚の眼を忍んで東海林からの手紙を再び開けてみた。

『追伸!思うんだけど離れて初めて分かるかけがえのない物ってあるよね?僕の場合
イカ焼きが無いとどうも駄目なんだ(笑。藤波さんはそういうの無い?』

「・・・まさかこの手紙のお陰でそのかけがえのないのが分かった、なんて言ったら
東海林の奴驚くだろ〜な。」
微笑を浮かべながら竜之介が言った。もちろん渚が聞こえない程度の音量で、であ
る。
「そうだ。気付かせてくれたお礼にイカ焼きでも送ってやるか・・・」

そう言うと手紙をポケットにしまい、竜之介は渚の居る台所へ足を向けた・・・・・。


終わり




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